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第24話-4 卒業式の日
松山は、春の横顔をチラリと見て、
とある話題を振るか迷った。
秋のことだ。
高一の秋頃か。
春に告白して振られてしまった、と秋が泣きついて来て以来、度々秋の恋愛相談を受けていた。
しかしある時期から、
秋はめっきり春の話をしなくなった。
興味がなくなった、というわけではない、
というのは、秋を見ていればすぐに分かった。
松山は、秋から聞いた春の言葉が、
ずっと頭に引っかかっていた。
それは、秋が春に初めて思いを告げた時に春が言ったという言葉だ。
"勘違いだと思うよ"
春は、秋に好きだと言われ、そう言ったらしい。
それを初めて聞いた時、
松山は"春らしくないな"と思った。
春は自分の意見や考えを、ほとんど口にしない。
相手の言葉や考え、気持ちに寄り添い、
それをそっと受け入れていく人だ。
なのにそんな春が、秋の好きだという告白を"勘違いだ"と否定した、というのは、なんとなく腑に落ちなかった。
それに。
秋が、白石と付き合いだした、というのも、
松山はおかしいと思っていた。
秋が春をまだ好きだというのは、秋の学校での行動一つとっても明白だ。
気にしないふりをしているが、秋はいつも、一人こっそりと教師が持つ出席票を盗み見ているのを、松山は知っていた。
そこにはその日の生徒の出欠情報が記載されており、事前に仕事で休む場合はその旨がそこに書かれているのだ。
秋はいつもそれを確認し、その日春が来るかどうか、見ているようだった。
春が遅れて登校してくる日などは顕著だ。
休み時間のたびにちらちらと教室のドアを確認し、春が来るのを待っているのだ。
まだ春を好きなのに、
秋に思いを寄せている白石と付き合う。
それは、秋の性格からしてありえないことだと、
松山は思っていた。
秋は真っ直ぐで馬鹿正直な人間だ。
人の思いに敏感で、思いやりがある。
そんな秋が、白石の自分への思いを知っていながら付き合っているなんて、本当に考えられないことだった。
そんな残酷なことを、理由もなしに秋は絶対にしないだろう。
友達として、松山はそう断言できた。
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