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第24話-9 卒業式の日

クラスメイトとの卒業を祝したご飯会の帰り道、白石と共に夜道を歩く。

 ずっと黙っている秋に、白石が明るく話題を振る。

 「すごいね、ボタン、全部ないじゃん!」

 秋の制服のボタンは、下級生たちにねだられ、全てなくなってしまっていた。 

「約束した通りさ、ちゃんと取っててくれた?」

 白石が笑顔で問いかけた。 


卒業式の前の日、白石が秋に言っていた。
 「第二ボタンはさ、ちゃんと私にちょうだいね?」

 秋はその約束通り、ポケットには事前に取っておいた第二ボタンがあった。


 はい、と白石が立ち止まり、
笑顔で手のひらを差し出す。


 それに秋は、ごめん、と静かに言った。 


白石はその秋の言葉に一瞬表情を崩し、しかしすぐにまた笑顔を作り、もしかして忘れてた?と明るく秋に尋ねた。

 すると秋は白石の顔をまっすぐ見て、言った。

 「あげられない」 

白石は笑顔を作ったまま、沈黙し、そしてなんで?と小さな声で聞いた。

 「別れよう」

 白石は小さくふふ、と笑った。
 思わぬ反応に、秋はじっと白石を見ている。

 白石はそうして笑ったまま、言った。

 「いいって言ってるでしょ?壱川くんを好きなままでいいって。」

 続けて言う。 

「…二番って言ったけど、三番でも四番でもいいよ。何番目でもいいよ。他に彼女でも彼氏でも作ってくれていい」


 「ダメだよ。

…ダメでしょ?」

 秋は泣きそうな表情で白石にそう言った。 


白石はその秋の表情をみて、作っていた笑顔を崩す。

 「…本当にごめん」
 秋はそう頭を下げる。

 しばらくの沈黙のあと、
白石が小さな声で、…わかった、と言った。


 秋は顔を上げて、白石を見る。 
目があって、白石は小さく笑った。

 「曲にしてね」

 「…え?」

 「私のこと、曲にして。

…ちゃんとさ、供養してよ、私の気持ち」 

白石はそうやって笑って言いながら、涙を流した。


 そして手のひらを差し出した。

 「ボタンくらい、もらってもいいよね?」

 そう言った白石の手に、秋は第二ボタンを置いた。

 それを白石はきゅっと握り、さようなら、と言った。





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