1 / 28

第1話

「ねえ、愁ってさ、マッチングアプリやったことある?」 美咲が唐突に言った。
彼女はコンビニのサラダをつつきながら、いたずらっぽく笑っている。 「え、なに急に。俺に恋愛とか縁遠いの知ってるでしょ」 「うん、それは知ってる。だからこそ、一歩踏み出してみない?」 スマホを見せてきた。画面には、爽やかな男たちの笑顔がズラリ。
アプリ名は『HUG』。
“ちょっとだけ踏み出したい人向け”がウリらしい。 「これね、男女もOKだし、同性同士も多いの。最近はリアルで推しカプ作る人も多いし、使ってる人多いよ」 「……いや、俺そっちの趣味ないから」 「え?でも愁ってたまに“受け顔”するじゃん」 「え???、やめてくれ……」 「あと、友達も男と結婚して幸せそうにしてるし。性別って案外どうでもいいよ。
中身で惹かれたら、それが答えじゃん?」 「……はあ?」 美咲の“妙に説得力ある腐った視点”に押され、愁はタジタジになった。 帰宅後。
なんとなく気になって、アプリをインストールしてしまった。 数日後、メッセージが来た。
名前は「HawkEye33」。プロフ画像は風景写真。年齢は年下。
でも、文章の感じがすごく落ち着いてて、やり取りが妙に心地いい。 趣味の話、仕事の話、昔ハマってたゲーム……
気づけば毎晩、スマホを握りしめていた。 「今度、会いませんか?」 彼からそう言われたのは、やり取りを始めて2週間ほど経った頃だった。 土曜日、待ち合わせはスタバ。 いつもより少しだけ髪を整えて、服を選んで、緊張しながら店の扉を開ける。 「愁くん?」 その声に振り向いた瞬間、時が止まった。 見知らぬ男──そう思った。
 顔が、ドストライクすぎて。こっちの呼吸がおかしくなるくらいに。 けれど、どこかで見たような気もして、脳がざわついた。 ……誰だ?
思い出せない。

ともだちにシェアしよう!