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第19話

待ちに待った金曜日の夜。 愁は鏡の前でシャツのボタンをひとつひとつ留めながら、 小さく息を吐いた。
 ──タカヤと繋がりたい。
 彼の隣に立ちたいし、 同じ熱を分かち合いたい。 準備は抜かりない。
 さっきまでシャワーで丁寧に洗浄して、 プラグを仕込んで…… 歩くたびに奥を刺激されているのが分かる。
 (ちょっと恥ずかしいけど、これでいい。今日は絶対、伝えるんだ) スマホを手に取って、タカヤに送った。
 「仕事終わったよ。今から行くね」 画面に浮かぶ既読マーク。すぐに返ってきた短い返信。
 「待ってる」 ──それだけで胸が高鳴って、足取りが自然と速くなる。 玄関のチャイムを押すと、すぐにドアが開いた。 「……おかえり」
 タカヤは仕事終わりとは思えない落ち着いた顔で、 けれど目の奥には待ちきれなかった熱が宿っている。 「ただいま……じゃないか」
 思わずそんな言葉が漏れて、ふたりで照れ笑いする。 靴を脱ぐと、タカヤが自然にバッグを受け取ってくれる。
 「ご飯は適当に頼んである。ビールも冷やしてあるから、先に座って」
 「……ありがと」 リビングに入ると、 見慣れたはずのソファやテーブルが、 妙に特別な場所に見える。
 自分の身体の奥には秘密の準備が仕込まれていて、 それを知らずに優しく迎えてくれるタカヤに、鼓動がどんどん速まっていく。 タカヤが冷蔵庫からビールを二本持って戻ってきて、コトリとテーブルに置いた。
 「愁、今日は……顔がちょっと赤いね?」 「……タカヤ」 その声音は普段より低く、けれど揺るぎない。
 タカヤが目を瞬かせる。 「俺さ……」
 「ん?」 愁は深く息を吸い込み、まっすぐにタカヤを見た。
 「俺さ……本当はとっくに好きだった。でも、言えなくて……。それでも待っててくれたんだよな。ありがとう、タカヤ。俺はもう決めた。これからはお前と一緒に生きていく」 迷いのない宣言。 タカヤは一瞬、言葉を失ったように愁を見つめる。
 「……今、なんて言った?」 「聞こえただろ。俺と一緒に生きていこうって。もう離れられないんだ。タカヤといる時間が楽しすぎて……俺はお前とこれからを過ごしたい」 愁の瞳には赤みが差していて、 それでも逃げずに真正面から伝えてくる。 
それはプロポーズの言葉そのものだった。

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