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第12話 君は世界の全て
ぼく……ぼくは……とーじ……いたい
ぼく……ぼ、お、おれ、おれ……は
おれは……
「おれはとーじとずっと一緒にいたい!」
「約束したんだ!二人でずっと一緒にいるって!おじいちゃんになっても一緒だって!!」
春橙は叫んだ。ビリビリと空間が震えるほどの強い思い
『でも、トウジクンはキミを置いていっちゃったんでしょう?彼は嘘つきだね』
「とーじを悪く言うな!!」
『ごめんごめん
ただキミがかわいそうだと思ってさ』
「とーじはすごいんだ
頭がいいから、トウキョウに行っていっぱい勉強してる」
『勉強ならここでもできるよ
わざわざキミを置いていく必要はない』
「トウキョウでしかできないんだよ!」
『ボクなら大切なキミを置いていったりしないなぁ
キミにはこんな寂しい思いをさせて、トウジクンはずるいねぇ』
「とーじはずるくない!」
「すごくがんばりやで、優しいんだ!
おれはとーじが夢中になって勉強してる姿が好きなんだ
……きらきらしててきれいだ」
『トウジクンは勉強が好きなんだね!
キミより勉強を選んだんだもん。すごく大切なんだね、勉強』
「……とーじはおれが好きって言った」
『もちろん!キミのことは大好きだよ!
でも、勉強の方がもっと大切なのかもしれないね
トウジクンに東京でいっぱい好きなものが見つかるといいね』
「とーじは帰ってくるよ、絶対
……約束したんだ」
『約束かぁ……
人はすぐ約束をやぶるからなぁ』
「とーじは約束を破るようなじゃやつじゃないよ!」
『ごめんごめん、キミのことが心配でつい……
だってオカアサンはキミとの約束を守らなかったじゃない』
『あんなに信じてたのに』
『かわいそうに』
『キミがまた傷つくところを見たくないんだよ、ボクは』
「オカアサンととーじは違うっ!!」
『もちろんさ!トージクンは今もキミのことが大好きだよ』
『……でもさ、東京にはすごく魅力的なものがたくさんあるよ』
『きっときらきらした目で見てるんだろうね、キミの大好きなあのきらきらした目でさ』
「とーじはおれに宝物をくれたんだ!!
すごくすごく大切にしてたのに!!
ずっと一緒にいる誓いの証だって!!」
『……宝物?』
『うーん……、どうかなぁ。簡単に人にあげられるようなものなら、本当の宝物じゃなかったのかもね……』
「そんなことない!!
毎日毎日きれいに磨いて、毎日毎日ずっと見つめてた
すごく不思議な色をしてるって、きらきらした目で毎日見てたんだ」
『それをキミにくれたの?』
「そうだよ!いつかけっこんしようって誓いの証にくれたんだ!!」
『へぇ!婚約指輪みたいだね!
……ちょっと見せてよ』
「嫌だよ、大切なものなんだ」
『じゃあ、信用できないなぁ
本当はそんなもの、ないんじゃないの?』
「……っ
……見るだけだよ」
『もちろん』
「……触らないでよ」
『約束するよ』
春橙 は小さな袋に入ったびい玉をそっと取り出した
人差し指と親指でつまんでかざすと、緑とも青ともつかない不思議な色をしたそのガラスできた球体は、チカリと冷たい光を放った
『……欲しい』
「え?」
『すごくきれいだね!!
……ねぇ、それボクにチョウダイ……』
「だめだよ!!」
『ははは!
冗談だよ!キミの宝物だもんね』
春橙 はあわててびい玉を胸元のポケットにしまった
春橙 の強張った表情がほっとしたように少しだけ和らぐ
『トウジクンはきっと素敵な人なんだろうね』
「とーじはヒーローみたいにかっこよくて、一緒にいると胸の真ん中あたりがぽかぽかするんだ」
「それに、虫をつかまえるのがとっても上手い」
春橙 は少し鼻の穴を広げ、誇らしげに言う。
『キミはトウジクンが本当に好きなんだね』
「大好きだよ
とーじがいたらいい、何もいらない……」
『叶えてあげようか?』
「え?」
『キミの願いだよ』
『トウジクンに会いたいんでしょ?』
『ずっと一緒にいたいんでしょ?』
「……」
『ボクはキミのことが好きだなぁ
こんなにまっすぐにトウジクンを想っているキミを応援したくなったんだよ』
『……だからさ、ボクにキミの願いを叶えさせてよ』
『キミは願うだけでいいんだ』
『ボクがぜぇんぶ、叶えてあげる』
「……どうして?」
『言ったじゃないか!
キミたちのことを気に入ったからだよ!
キミたちにはハッピーでいてほしいんだ!』
「でも……」
『じゃあこのまま待つのかい』
『いつ帰ってくるかわからないトウジクンをずっと?』
ボクなら耐えられないなぁと嘆息するように空気が揺れる
『キミはもう十分待ったよ』
『よくがんばったじゃない』
『そろそろご褒美をもらってもいいんじゃない?』
言葉たちがねっとりと甘い水あめのように心のひだに絡みつく
『……ねぇ、一人はさみしいよ』
「さみしい……」
春橙 の目からぽたぽたと透明な滴が落ちる
『戻りたくない?トウジクンがいて、毎日が輝いていたあの頃みたいに』
「戻りたい……会いたい……会いたいよ、とーじ……」
「……でも、とーじはぼくのことが嫌いになったのかも……」
『そうなのかい?』
「ぼくを置いていった」
『どうしてだろう?』
「ぼくがいいこじゃないから……」
『そんなわけないよ!キミは本当にすばらしいよ』
『心配いらないよ、直接会って聞いてみればいいじゃない』
「……こわい」
『あぁ、会って拒絶されるのが怖いんだね
大丈夫、ボクがついているから』
『キミはもう、一人じゃないよ』
『さぁ!言ってごらん!キミの願いを!!』
「ぼくは……ぼく、は……
とーじに会いたい……っ
とーじとずっと一緒にいたい!!」
春橙 の願いを聞き届け、にちゃりと空気が厭な音をたてて歪んだ
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