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第13話 キミはボクのたからもの

「どうしてもこれが必要なの?他の物じゃだめ?」 『そうなんだ……  生きているトウジクンにアクセスするには、どうしてもトウジクンに繋がりのあるものが必要なんだ……  そして、そのびい玉はキミとトウジクンに深く繋がってる』  春橙(はると)はびい玉を守るようにぎゅっと胸元を押さえた 『心配しなくてもトウジクンが戻ったら、ちゃんとびい玉はキミに返すから』 「このびい玉があればさ、とーじと離れてても繋がってる感じがするんだ」  春橙(はると)の声は、慈しむように、語りかけるように、びい玉を優しく包む 「……ねぇ、きみは知ってる?  空って本当に青いんだ  海は本当に大きくて、先が見えないくらい大きい  どこまでもどこまでもつながってて、その先にはガイコクがある  海の上を白い光が走って、いつも動いてる  たくさんおもしろいものを運んでくるんだ」 『トウジクンが教えてくれたの?』 「そう、とーじはとっても賢いんだ」 「とーじといると毎日毎日、一日だって同じ日はなかったよ  とーじがいるだけで、わくわくして、きらきらして、明るいんだ」  過去の幸せを噛み締めるように、頬を紅潮させる春橙(はると)には、ゴクリとのどを鳴らすような音は耳に入らなかった  じゅるりと何かをすすり上げるような水音も 『……いいなぁ』 「……すごくすごく楽しかった……」 『かわいそうに、そんな明るい日がずっと続くって信じてたのにね……』 『知らないままならこんなに寂しくなかったよね?苦しくなかったよね……』 『またあの暗い部屋に戻るなんて……  あっ!ごめん……ボク余計なこと言ったよね……  怒ってる……?』  春橙(はると)から、電源を落としたようにぱっと光が消えた 「……怖いんだ、戻りたくないよ……  あの部屋は暗い……」 「……暗いんだ」 『わかるよ……  キミは……、いや、誰であっても、あんな辛い思いを二度とするべきじゃない  暗い部屋で信じて待つしかできないなんてことに、耐えるべきじゃない』 「とーじのいない世界は寒い」 「とーじのいない昼間は暗い」 『消えてしまいたい?』 「……わからない」 「でも、どうしておれはとーじがいないのに存在しているんだろう?って思う……」 『そんな悲しいことを言われると、ボクが泣きたくなる……』 『……ねぇ、ハルトクン  本当に今がチャンスなんだ』 『キミがトージクンからもらった、大切なたからものを、一時的にでも手放したくないのはわかる』 『でも、今夜は新月でね、ボクのオマジナイの効果がいちばん高まるんだよ』 『このタイミングを逃したら次は一カ月後なんだ……』  辺りの空気が身悶えるように揺らいだ  春橙(はると)は手の中のびい玉に視線を落としながら口を開いた 「よくとーじと海に行ったんだ  とーじと飲むラムネは、世界一美味しかった」 「おれには味はわからないけど、世界一美味しかったんだ」 『そんな美味しいものに、この先も出会えるよ、トージクンといればさ』 「……」 『また飲みたくないの?トージクンと』  苦し気に歪む春橙(はると)の眉を見て、空気が微かに震える  笑うように  楽し気に 『ねぇ、ハルトクン  一歩ずつでいい、前に進もう』 『二人の未来のためにさ』 「おれと、とーじの未来……」 『そうさ!二人の未来のために!』  日没の時間が近づき、徐々に辺りは暗度を増しつつあった  その闇に紛れるように蠢き、春橙(はると)へと手を伸ばすナニカ    春橙(はると)は反射的にびい玉を守るように身を縮ませる  近くの空気がちっと音を鳴らす  一呼吸おいて、闇が蜂蜜のように甘く囁いた  春橙(はると)に向かって 『ねぇえ、ハルトクン』 『びい玉とトージクン』 『……どっちがダイジなの?』   春橙(はると)は覚悟を決めたように、きゅっと唇を引き結び、震える手を前に差し出した  太陽は完全に海の向こうへ姿を消し、夜の闇が春橙(はると)を包み込んだ

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