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第14話 真夏の夜の花

 桃慈(とうじ)は、ベットの上で足を投げ出すように座り、溶けかけたアイスをかじった。  開け放った窓から吹き込む夜風と、ソーダ味の清涼感が夜になっても下がらない暑さを和らげてくれる。  横を向くと春橙(はると)の物珍しそうな視線とぶつかる。 「そんなに見られてると食べづらいよ」 「いーんだよ。とーじが食べてるのを見ると、おれも食べた気になるから」  桃慈(とうじ)はなんとなく気恥ずかしくて、窓の外に目を向ける。  昼間は奥に海が見えるが、日の落ちた今はただの黒い影にしか見えない。  聞きなれたカエルの大合唱に混じって、乾いた破裂音が響き始めた。 「ああ!今日は花火大会か……」 「ハナビ?」 「港の方で毎年してるだろ?見えないけど、音だけは響くんだよなぁ」  ここからは見えないとわかっていても、なぜか心はざわめく。桃慈(とうじ)は網戸を開けて外へと身を乗り出し、夜空を見上げた。  そこにはわずかな星の光があるばかりで、いつもと変わらない風景が広がっていた。  桃慈(とうじ)は、右腕にひんやりとした空気を感じ、振り向いた。  春橙(はると)のまっすぐな視線とぶつかる。そこにかすかな怯えの色を感じ、桃慈(とうじ)は実体をもたない彼を抱きしめた。 「……来年は一緒に行こうな。花火大会」 「……うん」 「旅行もいいよな。どこがいいかな~。がんばってお金貯めるからさ、二人でどこか遠くに行こう」 「遠くか……」  ひんやりとした彼を腕に抱いたまま、桃慈(とうじ)は言葉を紡ぎ続ける。 「海外もいいけど、国内で豪華な温泉旅館とかもいいよな」  飛行機代だって一人分で済むし、と冗談めかす桃慈(とうじ)。  春橙(はると)はぎゅっと桃慈(とうじ)の胸に顔を埋めるようにし、 「……いい。とーじがいるならどこでもいい」 とつぶやいた。 「……いるよ。ずっとそばにいる。何があってもそばにいるから」  ごめんな、一人にして本当にごめんと、答える声にはかすかに涙が滲んでいた。  空気を揺らす破裂音とゲゲゲと互いを呼び合うカエルたちの夏の夜の営み、車道を駆け抜ける車の排気音。  二人はただ、そこに互いがあることを確かめるように、すがるように抱き合った。 「とうじー。ごはんできたよー」  ドアの外からかけられた呼びかけに、桃慈(とうじ)はぱっと体を離した。 「はーい」とドアの外に向けて返事をすると、春橙(はると)へと向き直った。  今にも泣きだしそうに歪んだ春橙(はると)の表情に、ふと頬をゆるませ、そっと唇を重ねた。  桃慈(とうじ)の唇にひんやりとした空気がふれ、離れる。 「いってきます」  照れくさそうに春橙(はると)から目をそらすと、ベットから下り、母の待つリビングへと向かった。      

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