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第15話 母 未知子
「なんか、顔赤いけど熱でもある?大丈夫?」
リビングで顔を合わせるなり、母の未知子からそう声をかけられ、子どもの頃のようにおでこに手を伸ばされて桃慈 は苦笑しながら母の手を避けた。
「なんでもないよ。それよりお腹空いた」
「食欲があるなら風邪じゃないか……。でも少し瘦せたんじゃない?」
すくすくと成長した息子の顔を見上げ、観察するようにまじまじと見つめた。
「そうかな?」
言いながら桃慈 はリビングの食卓につく。何年も前にコンビニでポイントと交換したキャラクターものの皿に、ハンバーグと付け合わせのミックスベジタブルがのっていた。
いやだわー、私が大したもの食べさせてないみたいじゃないとブツブツつぶやきながら、温め直した味噌汁をお椀に注いでいる。
「栄養バランスのとれた食生活で、無駄な贅肉が落ちたんだよ」
「じゃあどうして私は痩せないわけ?」
納得がいかないというように、眉間にしわをよせる母の言葉を聞き流し、さっそくハンバーグへと箸をのばす。
口いっぱいにハンバーグと白米を頬張る息子を見て、体調不良への疑念は消えたらしく、自身も食卓につき、味噌汁をすする。
桃慈 は化粧気のない母の顔をそっと盗み見た。まだ40代の母は20代で桃慈 を産み、桃慈 が幼い頃に夫と離婚し、以来一人で息子を育ててきた。
ひっきりなしに交際を申し込まれるような美貌の持ち主ではないが、誰からも見向きもされないような容姿でもないはずだ。
「母さんはさ……、恋人とかいないの?」
「どうしたの?やぶからぼうに」
未知子は唐突な息子の問いかけに、目を丸くし、けらけらと笑い出した。
「孫の顔とかさ、やっぱり見たいもん?」
息子のさらなる問いかけに、ただならぬものを感じたのか、さっと表情を強張らせ、
「とうじ……、あんたまさか……?」
と疑惑の目を息子に向けた。
桃慈 はぎくりとしたが、母の手が腹の前で弧を描いているのに気づき、さっと顔を赤らめた。
「ちがうから!!」
「何よ、もう。びっくりさせないでよー」
怒りとも羞恥ともつかない感情を白米で飲み下すように、桃慈 は黙々と夕食を口に運んだ。
未知子は再び味噌汁で口を湿らせると、お椀に視線を落としたまま
「……そりゃあ、かわいい息子の孫ならかわいいに決まってるだろうけど……さ
それを義務にはしてほしくない……かな
とうじにはとうじの人生を生きてほしい」
静かに言い、やだ私いいこと言うー、とおどけたように笑い出した。
桃慈 はそんな母を見つめていたが、意を決したように
「母さんは、自分の人生を生きれた?」
と聞いた。
「……まぁ、子どもがいれば、自分最優先では生きられない……わな」
息子にというよりも、自分に語り掛けるように未知子は言葉を重ねていく
「でも、私はその道を自分で選んだの。
それって自分の人生を生きるってことじゃない?」
「……後悔はない?」
「ないよ」
未知子はまっすぐに息子の目を見て言い切った。桃慈 はそんな母が眩しくて、そっと目を伏せた。
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