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第18話 繋がる想い
うずくまる玲央に覆いかぶさるように包み込んだ。
俺は今度こそ逃したくないと、ギュッと玲央の体を抱きしめた。
「玲央……もしかして、俺が好きだったの?」
玲央の言葉に、今までの玲央の態度が腑に落ちた。
だから、俺が親友だって言ったときに暗い表情をしていたんだ。
「ずっと……好きだった」
玲央の声が俺の耳に微かに届いた。
俺はなんて馬鹿だったんだろう。
俺だって、本当はずっと……
「俺も玲央が好きだった」
「お前の言う好きなんて、信じられない」
顔を上げないまま、玲央は吐き捨てるように言った。
その声は震えていて、強がりと怯えが入り混じっていた。
「……俺のことからかってるだけだろ。どうせ本気じゃない。親友だからとか……そんな理由で言ってんだろ」
俺の胸の奥がズキンと痛んだ。
──違う。絶対に違う。
「玲央、違うんだ!俺の好きは友達とか親友とか、そんなもんじゃない」
俺は、ゆっくりと玲央から体を離して、玲央の拳に自分の手を重ねた。
「玲央の隣を誰にも渡したくないんだ」
もう片方の手で、玲央の頭をゆっくりと撫でる。
「誰にも玲央に触らせたくない」
俺の言葉に、玲央がゆっくりと顔を上げる。
赤い目元から、涙が零れそうになっている。
俺は指でその涙を優しく拭う。
「玲央には、ずっと笑っててほしい。その役目は、俺がいい」
「……柊斗」
俺は涙に濡れる玲央の大きな瞳に見つめられて、初めて気持ちが届いたと実感できた。
頬を撫でる俺の手に、玲央の冷たくなった右手が重なる。
「柊斗、信じていいの?本当に俺の好きと、同じ“好き”なの?」
「うん、同じだよ」
玲央の頬がだんだんと熱を持って、俺の手のひらを温める。
「もしかしたら、玲央が思ってる以上に好きかも」
「それはないだろ。俺の方が先に好きになった」
「早さじゃないでしょ。俺は……重いよ?」
俺は冗談じゃなく、本気でそう告げた。
玲央のことを思うと胸が苦しくて、独り占めしたくて、どうしようもなくなる。
玲央は一瞬だけ目を丸くして、それからふっと笑った。
涙で濡れた瞳なのに、その笑顔はどこか安心しているようだった。
「……いいよ。俺も、たぶん重いから」
その一言に、俺の心臓が大きく跳ねた。
玲央が思っている以上に俺の執着心は強めだ。
それでも受け入れてもらえるのかな。
「ほんとに?」
思わず縋るように問い返すと、玲央は小さく頷いて俺の手を握り返した。
「……柊斗だったら、重くてもいい」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺の胸の奥が熱く溶けていった。
たまらなくなって、俺は玲央をもう一度強く抱きしめた。
「玲央、俺の恋人になって」
俺は玲央の耳元ではっきりと自分の願いを伝えた。
俺の言葉に、玲央は強く抱きしめ返してくれる。
「うん、恋人にして」
玲央に受け入れてもらえた喜びに、体の芯から震えた。
それでも、密着している体からお互いの鼓動を感じて安心する。
俺は玲央の表情が見たくなって、体を少し離して顔を覗く。
そこには真っ赤になって、恥ずかしそうにはにかむ俺の恋人がいた。
玲央のその表情を見た瞬間、俺の理性はどこか彼方に消え失せた。
──か、かわいい……
「っ玲央!」
「んむ?!」
信じられないほどの可愛らしさに俺は我慢ができなくなり、そのまま玲央の唇を奪った。
突然のキスに玲央の体がピクリと跳ねる。
ほんの一瞬、唇が触れ合っただけ。
それなのに心臓は爆発しそうなほど高鳴って、息が苦しくなる。
慌てて顔を離すと、玲央の目がまん丸になって俺を見ていた。
耳まで真っ赤に染まっていて、その顔が余計に可愛くて……俺は思わず玲央を抱きしめた。
「ご、ごめん! 我慢できなかった……!」
「……バカ、ほんと変態」
玲央は小さく呟いて、視線を逸らす。
俺から隠すようにして、自分の唇を撫でる玲央に頭がクラクラとした。
沈黙が気まずくて、俺は恐る恐る問いかける。
「……嫌だった?」
しばらくして、玲央は俯いたまま小さく首を振った。
そして震える声で、でもちゃんと届くように言ってくれた。
「……もう一回だけ、なら」
「そ、そんなこと言われたら……どうにかなりそう……」
俺はどうしていいかわからなくなり、一度天を仰ぎ深呼吸をした。
これ以上、玲央を抱きしめてたら、俺が何をしでかすかわからない……
そう思い、俺は玲央から少し体を離したときだった。
玲央が俺の腕を掴んで体を寄せてきた。
「早くキスしろよ、ノロマ」
「へっ?……んんっ!??」
俺の唇に玲央の唇が押し付けられる。
不慣れなキスは、玲央を魅力的に変えた。
俺は目を見開いたまま固まっていたけど、玲央がぎこちなくも必死に唇を押し付けてくる感触に、頭の中が真っ白になった。
「……れ、玲央……」
声にならない声が漏れる。
ゆっくりと離れていくその唇を目で追ってしまう。
長いまつげの大きな瞳が俺の心を射抜く。
「お前が遅いから……もう、待てなかった」
真っ赤な玲央と目が合う。
心臓が激しく音を立てて、今にも破けそうだった。
「待たなくていいよ。玲央、待たないで……」
「今度ちんたらしてたら許さねーから」
玲央が唇を尖らせて文句を言ってくる。
それすらもかわいくて愛おしい。
「玲央……めっちゃ好き」
何も考えずに口から出た言葉が、玲央の表情を柔らかく変えた。
全校集会が終わったみたいで、遠くから人の声が聞こえてくる。
夏休み前の暑い夏。
空には眩しい太陽が輝く。
駐輪場のボロい屋根の下、誰も知らない隠れ場所で俺たちは3度目のキスをした。
やっと繋がった二人の想いを噛みしめるように、長く優しく抱きしめあった。
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