25 / 26
第17話 届けたい気持ち
俺の呼びかけに、玲央の肩がビクッと揺れる。
それでも顔を上げない彼に、俺はゆっくりと詰め寄って行った。
「……ここだと思った」
俺はできるだけ優しく玲央に話しかけた。
「玲央の逃げ場所は、前もここだったね。」
ゆっくりと……ゆっくりと近づいて、玲央が驚かないように話しかける。
まるで野良猫に会ったときのような近づき方だ。
玲央は膝に顔を埋めたまま、ピクリとも動かない。
ただ、その肩だけが小さく上下している。
「……俺が近づくの、イヤなら言って」
足を止めて、俺は静かにそう告げた。
返事はなかった。
それでも拒まれてはいないと思いたくて、俺はさらに一歩、砂利を踏む。
ザリ……ザリ……
近づくたびに音がして、俺の鼓動はその倍の速さで鳴り響いていた。
「玲央……」
声が震えていた。
「俺は、もう……お前を見失いたくないんだ」
その言葉に、玲央の背中がピクリと揺れる。
小さな反応が、俺には救いだった。
「玲央が俺から距離を取ったのは、きっと……俺が何かしちゃったんだろ?」
俺は、ついに原付きの横にうずくまる玲央の横までたどり着いた。
そして、ゆっくりと優しく自分の気持ちを言葉にしていく。
「玲央が離れていって、俺すごく寂しかったんだ。……俺にできることなんて、何も無いって思って、玲央がまた話しかけてくれるのを待ってた」
「……本当に、意気地なしだろ?」
俺はドクドクとうるさい心の音を落ち着かせるように、強く胸に手を当てる。
「自信が……なかったんだ」
「俺なんかが、玲央の特別になりたいなんて……。そんな、想像をすることすらできなかった」
瞼を閉じて、拳を握った。
口から出る息が、緊張で震える。
「でも、気づかせてくれた友達がいたんだ」
「おかげで今は、俺は俺のままでいいんだって、思ってる。……いや、まだそこまでじゃないけど、そうなりたいって思ってる。」
「玲央……だから、俺の気持ちを伝えるよ。ずっと欲望を抱えてたんだ。自分でも手に余る思いで、どうしたらいいか……わからなかった思いを」
俺は瞳を開けて、未だ顔を隠している玲央を見つめた。
俺の声を聞いてほしい……
俺を見てほしい……
「俺は、玲央が……」
「待って!!」
今までずっと口を噤んでいた玲央が突然声を張り上げた。
玲央の声は、掠れているのに鋭かった。
俺の言葉を断ち切るように空気を震わせ、胸の奥に突き刺さった。
俺は反射的に口を閉じる。
原付きの影に身を潜める玲央の横顔が、ようやく少しだけ見えた。
赤く縁取られた目元と、震える唇。
「……聞きたくない、お前……文化祭のときだって……」
言葉の先を言えずに、玲央は膝に顔を伏せる。
握った拳が白くなるほど強く、制服の裾を握りしめていた。
「……玲央、俺は」
「お前の気持ちなんて、どうせ親友止まりなんだろ!」
「……違っ」
俺の言葉がどうしても聞きたくないのか、玲央が言葉を被せて声を上げる。
「俺が、どれだけお前を諦めようと努力してるか……お前にわかるのかよっ!!!」
俺は、玲央の悲痛の叫びに耳を疑った。
──俺を諦めようと?
「ちょ、ちょっと待って……玲央、もしかして……」
俺の言葉に、玲央の肩がさらに小さく震える。
顔は相変わらず膝に埋めたまま、声だけが押し殺すように漏れてきた。
「……親友なんだろ、俺たち」
掠れたその声に、胸が締め付けられる。
「お前のこと、諦めなきゃって……ずっと……。
だって、柊斗は俺なんかじゃなくて……普通に彼女とか作るんだろうって……!」
声が震えて、最後は裏返る。
そのたびに俺の心臓は強く跳ねて、喉の奥が熱くなる。
「玲央……」
思わず伸ばしかけた指先が、でもすぐに止まった。
触れたら壊れてしまいそうで──。
俺が手を握り、口を開きかけたその時だった。
「柊斗が好き……」
──!!
気づいたときには、さっき届かなかった手をもう一度伸ばしていた。
俺は今度こそしっかりと玲央の肩を捕まえて、目の前で小さくなっている玲央を抱きしめた。
ともだちにシェアしよう!

