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第17話 届けたい気持ち

俺の呼びかけに、玲央の肩がビクッと揺れる。 それでも顔を上げない彼に、俺はゆっくりと詰め寄って行った。 「……ここだと思った」 俺はできるだけ優しく玲央に話しかけた。 「玲央の逃げ場所は、前もここだったね。」 ゆっくりと……ゆっくりと近づいて、玲央が驚かないように話しかける。 まるで野良猫に会ったときのような近づき方だ。 玲央は膝に顔を埋めたまま、ピクリとも動かない。 ただ、その肩だけが小さく上下している。 「……俺が近づくの、イヤなら言って」 足を止めて、俺は静かにそう告げた。 返事はなかった。 それでも拒まれてはいないと思いたくて、俺はさらに一歩、砂利を踏む。 ザリ……ザリ…… 近づくたびに音がして、俺の鼓動はその倍の速さで鳴り響いていた。 「玲央……」 声が震えていた。 「俺は、もう……お前を見失いたくないんだ」 その言葉に、玲央の背中がピクリと揺れる。 小さな反応が、俺には救いだった。 「玲央が俺から距離を取ったのは、きっと……俺が何かしちゃったんだろ?」 俺は、ついに原付きの横にうずくまる玲央の横までたどり着いた。 そして、ゆっくりと優しく自分の気持ちを言葉にしていく。 「玲央が離れていって、俺すごく寂しかったんだ。……俺にできることなんて、何も無いって思って、玲央がまた話しかけてくれるのを待ってた」 「……本当に、意気地なしだろ?」 俺はドクドクとうるさい心の音を落ち着かせるように、強く胸に手を当てる。 「自信が……なかったんだ」 「俺なんかが、玲央の特別になりたいなんて……。そんな、想像をすることすらできなかった」 瞼を閉じて、拳を握った。 口から出る息が、緊張で震える。 「でも、気づかせてくれた友達がいたんだ」 「おかげで今は、俺は俺のままでいいんだって、思ってる。……いや、まだそこまでじゃないけど、そうなりたいって思ってる。」 「玲央……だから、俺の気持ちを伝えるよ。ずっと欲望を抱えてたんだ。自分でも手に余る思いで、どうしたらいいか……わからなかった思いを」 俺は瞳を開けて、未だ顔を隠している玲央を見つめた。 俺の声を聞いてほしい…… 俺を見てほしい…… 「俺は、玲央が……」 「待って!!」 今までずっと口を噤んでいた玲央が突然声を張り上げた。 玲央の声は、掠れているのに鋭かった。 俺の言葉を断ち切るように空気を震わせ、胸の奥に突き刺さった。 俺は反射的に口を閉じる。 原付きの影に身を潜める玲央の横顔が、ようやく少しだけ見えた。 赤く縁取られた目元と、震える唇。 「……聞きたくない、お前……文化祭のときだって……」 言葉の先を言えずに、玲央は膝に顔を伏せる。 握った拳が白くなるほど強く、制服の裾を握りしめていた。 「……玲央、俺は」 「お前の気持ちなんて、どうせ親友止まりなんだろ!」 「……違っ」 俺の言葉がどうしても聞きたくないのか、玲央が言葉を被せて声を上げる。 「俺が、どれだけお前を諦めようと努力してるか……お前にわかるのかよっ!!!」 俺は、玲央の悲痛の叫びに耳を疑った。 ──俺を諦めようと? 「ちょ、ちょっと待って……玲央、もしかして……」 俺の言葉に、玲央の肩がさらに小さく震える。 顔は相変わらず膝に埋めたまま、声だけが押し殺すように漏れてきた。 「……親友なんだろ、俺たち」 掠れたその声に、胸が締め付けられる。 「お前のこと、諦めなきゃって……ずっと……。 だって、柊斗は俺なんかじゃなくて……普通に彼女とか作るんだろうって……!」 声が震えて、最後は裏返る。 そのたびに俺の心臓は強く跳ねて、喉の奥が熱くなる。 「玲央……」 思わず伸ばしかけた指先が、でもすぐに止まった。 触れたら壊れてしまいそうで──。 俺が手を握り、口を開きかけたその時だった。 「柊斗が好き……」 ──!! 気づいたときには、さっき届かなかった手をもう一度伸ばしていた。 俺は今度こそしっかりと玲央の肩を捕まえて、目の前で小さくなっている玲央を抱きしめた。

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