42 / 236

第7話-2 聞こえたかな

春との出会いは共に主演を務めた映画の、オーディションだった。 オーディション会場で初めて春を見た時、松山はひっそりと息を呑んだ。その場にいた全員がそうだったように思う。 強烈なほどの美しさとその醸し出す存在感に、この子は受かるだろう、と松山は春を一目見て思った。 撮影が始まってからすぐ、松山は春に自身のセクシャリティを打ち明けた。 作品ではキスシーンも予定されており、後から知って何か思われることが、松山は嫌だったからだ。 松山は昔からこうしてオープンだったわけではない。 昔はずっと、男が好きであることを隠して生きていた。 中学生の時、仲の良かった友人を好きになり、そして思いを打ち明けた際、その相手に笑われた挙句、その噂をばら撒かれ、気持ち悪い、オカマ、などと学校中からイジメを受けた。 恋愛的な好きという部分とは別のところで、ただ純粋に相手と築いてきたはずの関係性が、自分の"好きだ"と言う一言で全てないものになったことに、松山は深く傷ついた。 以来、松山はそうして人に先ずセクシャリティを打ち明け、その相手の反応を見て人付き合いをするようになっていた。 春に初めて打ち明けたとき、春は表情ひとつ変えず、そうなんだ、という一言だけを発した。 松山にはその真意はあまり分からず、春とはあくまで仕事上の付き合いとして、付かず離れずな関係性を築いていった。 撮影を終えて入学した高校が同じだと知った時も、松山はそこまで春に深入りせず、そして春も松山に深入りすることはなかった。

ともだちにシェアしよう!