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第9話-4 松山淳
ある夜、ふと向井が尋ねてきた。
「今瀬くんたちはどうなったのかな」
松山は少し考えた後、正直に答えた。
付き合ったみたいですよ、そういうと、向井はそっか、とただ一言、そう言った。
そしてその夜、身体を重ねている最中、春のことが好きなんですか?と松山は尋ねた。
すると、向井はそれに少し微笑むだけで、何も答えなかった。
松山は後ろから向井の目を塞いで言った。
「春だと思っていいですよ」
そう言ってただ黙って行為を続けていると、春、と向井が小さな声で呼んだ。
松山は黙った。
すると、向井はきっと春にそうしていたように、松山に逐一して欲しいことを言ってきた。
挿れて、動いて、早くして、舌を出して、舐めて、キスをして。
松山はそれにただ従った。
いつもより、向井がキツく締めるのが分かった。
そして果てる直前、向井は春の名前を何度も呼んだ。
松山はただただ、虚しかった。
苦しかった。
自分がしたことなのに、辛くて、痛くて、たまらなかった。
行為が終わった後、松山は逃げるように帰ろうとした。
しかし、その手を向井がつかんだ。
「帰らないで」
そう言われ、松山は堪えていた涙を流した。
そんな松山を、ただ向井は黙って抱きしめた。
他の人を呼んでください、松山がそう言うと、向井は言った。
「もう淳しか呼んでないよ」
松山はその言葉に再び嗚咽を漏らして泣いた。
なんで?なんで?松山は何度も泣きながらそう聞くが、向井は何も答えず、ただ松山を抱きしめるだけだった。
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