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第9話-3 松山淳

向井が春のことが好きだと気付いたのは、高校に入ってからだ。 いつものように向井に呼ばれ自宅に行った際、誰かの忘れ物のブレスレットが机に置かれていた。 松山はこれ誰の?と向井に尋ねた。 いつもなら、ニヤリと笑みを浮かべ、簡単に名前を吐くのに、その時向井は頑なにその持ち主の名前を言わなかった。 数日後、学校で春に会って春がそのブレスレットをつけていた時、松山はあれが春のものだと気付いた。 そして同時に、向井は春のことが好きなんだ、と悟った。 秋と向井の一件があった後、向井に呼ばれて自宅に行った時、向井は大量の眠剤を飲んで昏睡していた。 慌てて救急車を呼び、同乗した救急車の中で向井は弱々しく春の名前を呼んだ。 なんで僕じゃダメなんだろう、と向井は続けて言った。松山は、同じことを向井に思っていた。 なんで俺じゃだめ?松山は必死に涙を堪えた。 それからしばらく、松山は呼ばれてもないのに向井の自宅に通うようになった。 向井はそれに怒ることはせず、ただ松山がそばにいることを許した。 向井がねだればそういうことをして、求められなければ松山は手を出さなかった。

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