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第9話-2 松山淳
松山が向井に初めて会ったのは、松山がまだ中学1年の頃だった。
松山は昔から向井の作品のファンで、事務所の忘年会にゲストとして現れた向井に、松山から声を掛けた。
緊張した様子で向井の作品への愛を語る松山に向井は優しく微笑み、じゃあ次出て貰おうかな、と言った。
松山はそれが嬉しくて、無邪気にはしゃいだものだ。
忘年会の帰り際、送って行こうか?との向井の提案に、松山は良いんですか?と乗った。
少しでも長く、向井と話が出来ると嬉しかったからだ。
しかしそのまま向井は理由をつけて松山を自宅にあげ、「ドラマに出たいんだよね?」と松山にいやらしく触れた。
松山は当時好きな人に振られたばかりで、それだけではなく、それを好きな人にバラされ、学校中からイジメを受けていた。
それを知った両親からも腫れ物扱いされ、松山の居場所はどこにもなかった。
憧れの向井からそうした目を向けられ、松山は嫌だとは思わなかった。
むしろ、向井が自分と同じでそうであることに、嬉しささえあった。
そうして松山は向井を許し、その日から度々関係を持つようになった。
しかしすぐに、向井にはそういった相手が何人もいることを知った。
それでも、その時にはもう遅かった。
松山にとって向井はありのままの自分でいれるたった一つの居場所で、かけがえのない存在になってしまっていたからだ。
向井は約束通り、自分の作品に頻繁に松山を呼んでくれるようになった。
しかし共演に若い男性がいると、松山はその俳優とは仲良くできなかった。
その俳優も、向井とそういう関係なのではないかと勘繰ってしまうからだ。
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