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第9話-1 松山淳

「遅かったね」 部屋に入ると、向井はデスクでパソコンに向き合っていた。 松山が来たことがわかると、向井はかけていた眼鏡を外し、目の付け根を指で押さえた。 「…すみません、仕事で」 「忙しそうでなにより」 そう言って向井は松山にすり寄り、はぁ、と松山の肩に頭を置いてため息をついた。 「…シャワー浴びてきたら?」 そう言った向井に松山は素直に従い、部屋を出た。 部屋に戻ると、すでに向井はそこにおらず、松山はすぐに寝室へ向かう。 すると向井がベッドに横たわっていた。 松山がベッドにそっと腰掛けると、向井が松山の手を引いて松山を抱き寄せた。 松山は何も言わず、ただされるがままだ。 「…ちょっと寝る」 そう言って向井はすぐに寝息を立て始めた。 ベッドのそばの机には、すぐ先ほど飲んだのであろう眠剤が置かれていた。 「…寝るならなんで呼ぶんだよ」 そう松山は小さく呟くが、向井に抱き寄せられたまま、じっと動かない。

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