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第10話-1 きらい
向井が眠り始めてから5時間程。
松山はただじっと、向井を眺めていた。
目尻に入った皺、薄く生えた無精髭、白髪混じりの髪。
こんなおじさんなのに、と松山は胸の中で毒づくが、それでも、松山にとってはそれら全てが向井の好きなところだった。
向井は、テレビでドラマを見ている時決まって「僕が書いた方が面白い」「何この展開?つまんない」なんて悪口を言い出す。
それに松山が「向井さんが全部のドラマ書いたらいいのに」なんて向井を褒めることを言うと、向井は「淳もそう思うでしょ」と嬉しそうに笑った。
向井はいつもどこか自分に自信が無さげなのに、自分が作る作品に対してだけは誇りと自信を持っていた。
作品を褒められたりした時の、向井のその笑顔が、松山はたまらなく好きだった。
キスをする時、向井の髭が当たってチクチクする。
髭剃ってくださいよ、と松山が顰めっ面で言うと、向井はわざとその髭を松山の顔に擦り付けてイタズラに笑った。
もう、と松山がそれに怒ると、向井はまた松山に頬擦りして、「淳は肌綺麗だね〜」と嬉しそうにした。
ぼーっと二人でベッドに寝そべって、松山がふと向井の髭を撫でると、向井はそっと口角をあげ、「淳が好きだろうから剃ってないんだよ」と言った。
チクチクして嫌なはずなのに、松山はそうやって向井の髭を撫でるのは好きだった。
風呂上がり、いつも向井は鏡に向かって髪を気にするそぶりを見せた。
「ねえ、抜いて」と、松山に頭を差し出して白髪を探させるのだ。
「染めたらいいじゃないですか」と言っても、染めても染めても生えてくるんだよ、と困ったように向井は言った。
松山はそれを面倒だと思っていたのに、いちいちそれに付き合って、向井の白髪を抜いていた。
「あげようか?」と抜いた白髪を向井は差し出し、いらないですよ、と松山が顔を顰めても、あげるってば、としつこく言ってきた。
なんでこんな人のこと好きなんだろう、と松山が思うたびに浮かぶのはそんなくだらない場面ばかりで、でも、それを思い出すたびに松山はひどく胸が締め付けられた。
そして余計に、やっぱり向井さんが好きだ、と思う羽目になった。
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