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第10話-2 きらい
一度だけ、言ったことがあった。
「向井さんがくだらない本書いてても、向井さんとこうなってたと思いますよ」
そう言うと向井は寂しそうに笑って、そんなわけないよ、と言った。
それでも松山が本当ですよ、と言うと、少しだけ嬉しそうにした後、でもやっぱり寂しそうに、淳は優しいね、と言った。
向井のそういう寂しそうな顔を見ると、松山は胸がぎゅっと痛んだ。
才能だってある。
地位も名誉も、お金だってある。
見た目だって悪くないのに。
なんでこの人はこんなやり方でしか、
人と関われないんだろう。
そう思うと、松山は向井のことをどうしても放っておけなかった。
何度も苦しくて辛くて、その手を離そうとしたけれど、最後には結局、松山は自らその手を掴んで行ってしまう。
家に呼ばれて求められるたび、まだ自分を必要としてくれることに、松山は安心した。
この人は俺がいないとダメなんだ。
そんな浅はかな願望混じりの思いが、松山の心にはいつも浮かんでいた。
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