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第16話-7 初めてのデート
二人はあっという間にコースを平らげ、最後に締めとデザートを残すのみ、となった。
やっと腹が満たされ、秋は締めが届くまでの間、じーっと春を眺めた。
春はテーブルに置かれたメニュー表をなにやらじっくりと読んでいる。
改めて、秋は春のスーツ姿に頬を緩めた。
春が俯いてメニューを読んでいても、秋が整えた髪のおかげで春の顔がよく見える。
秋は数時間前の自分を心の中でひっそりと褒め称えた。
コンコン、とノックがなり、秋はきゅっと表情を引き締めた。
そうして運ばれてきた冷麺を前に、春は改めていただきます、と静かに手を合わせ、手をつけ始めた。
丁寧に麺を箸で拾い、丁寧ながらも大胆に麺を啜った。
ひんやりとしたその麺とスープに少し眉をあげ、目を細めた。
そうして麺を咀嚼し、ふと、秋がまだ手をつけてないことに気付き、顔を上げた。
咀嚼しながら、不思議そうに秋を見つめている。
秋はそれにじわぁ、と口角をあげ、春を見つめる。
すると春も同じように咀嚼して口を閉じているものの口角をあげ、なに?と言う代わりにか、こてん、と頭を傾けた。
秋は笑ったまま、言った。
「かわいい」
春はその言葉に笑いながら眉を顰め、そうして飲み込んだ後、お腹いっぱい?と秋に尋ねた。
秋はううん、と言い、やっと冷麺に手をつけ始める。
そうして麺を啜って微かな酸味と丁寧な出汁の味にんん!と声を上げて顔を上げると、今度は同じように春が笑ってこちらを見ていた。
「かわいい」
春が秋と同じようにそう言った。
秋はその言葉にたちまち赤面して、ごほっ、ごほっ、と咳をした。
ああ…と立ち上がりテーブルに置いた手拭きを差し出す春に、それを受け取って秋は口元を抑える。
そうしてやっと麺を飲み込み、言った。
「…俺は可愛いって春に言われ慣れてないんだから、やめて!」
そう一息に秋が言うと、春がおかしそうに笑って言った。
「…ごめん」
「はい!もう食べるよ!」
そう言って秋は麺を再び啜り始めた。
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