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第17話-1 思い出の場所
行きたいところがある、と言って秋が春を連れていったのは、二人が半年前に卒業した高校の校舎だった。
校舎の裏口はすでに開いていて、秋は普段教師らが車を停める駐車場に、車を停めた。
「勝手に入っていいの?」
そう不安げに尋ねる春に、秋はニヤリと笑って言った。
「実は、許可取ってるんだよね」
許可?と不思議そうな顔をする春に、秋は説明を始めた。
二人の属していた芸能クラスを三年間受け持っていた教師に秋がどうしてもと頼み込み、特別に今日だけなら、と夜間滞在して鍵を開けてくれている、とのことだった。
秋の言った通り、校舎に入り職員室に向かうと、そこには二人の担任の藤崎直哉 がいた。
「おお、元気してたか?」
二人を見るなり藤崎は二人に近寄り、なんだスーツでばっちり決めてー!と明るく言い、ポンポン、と二人の肩を優しく叩いた。
春はぺこっと深く頭を下げ、秋はえへへ、と笑っている。
「今瀬から聞いたよ、壱川の卒業式やりたいんだって?」
え、と春が言うと、秋があー!言わないでー!と藤崎の口を慌てて塞いだ。
聞こえた?!と秋が必死に藤崎の口を押さえながら聞くので、春はふふ、と笑って、なにも聞こえてない、と言った。
藤崎は秋にされるがまま、口を押さえられてじっとしている。
藤崎は俺も行かなくていいのか?と秋に尋ねたが、いい!いい!と秋に断られ、じゃあ終わったら最後職員室来てくれな、と言い、藤崎を残して二人は職員室を後にした。
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