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第17話-2 思い出の場所

そうして秋に連れられ向かったのは、体育館だった。 体育館に着くなり、秋は体育館の中にある準備室からパイプ椅子を二つ取り出し、体育館の真ん中あたりにその椅子を横並びに並べた。 そうして片方に秋は腰掛け、もう一つの方に春を誘った。 春がそれに腰掛けると、秋がふわっと笑って話し出した。 「ここで初めて春に会ったんだよね」 秋のその言葉に、春は優しく微笑んだ。 「初めて見た時さ、俺びっくりして」 「こんっな綺麗な人いるんだ!って目離せなくなっちゃって」 そう言った後、秋は照れるように笑った。そうして秋は、春は覚えてないでしょ?と尋ねた。 「覚えてるよ」 「嘘だぁ〜!」 「本当だよ、…本当にずっと見てたもん、秋」 そう言うと、秋は恥ずかしそうに笑った。 そうしてふっと表情を変え、言った。 「…卒業式の日は春いなくてさ、ほら、春ともあんまり…上手くいってなかったって言うか…ほとんど喋ってなかったじゃん」 「…うん」 「だからあの時は…あーこれで春に本当に会えなくなるのか、でもなんか…その方がいいのかな、とか…色々考えたりしてさ」 「……うん」 「あっそういえばね、卒業式の日さ、あっくんが春に連絡入れたら?って言ってくれたんだよね」 「そうなの?」 「うん、春体調悪そうだったよ、連絡入れたら?って 好きなんでしょ?って」 「…そうなんだ」 「あっくんにはいっぱい春の相談乗ってもらったんだよね 春のこと好きだって気付いたのもあっくんのおかげだし…ほら、文化祭の後春に告白して振られた時もさ、あっくんに話聞いてもらったりして」 そういった秋の言葉に、春は優しくふふ、と笑った。 「春は高校楽しかった?」 「楽しかったよ」 俺がいたから?と秋が冗談めかして言うと、春は優しく笑って、そうだよ、と頷いた。 春がそう言うと、秋は嬉しそうに笑って、身を乗り出して春にちゅ、と軽くキスをした。 そうしてポケットから何か取り出して、手を差し出した。 春がそれに手を伸ばすと、秋が手に持っていたものをコロン、と春の手のひらに落とした。 それは、制服のボタンだった。 秋は言った。 「三年の時着てた制服のは全部ボタン無くなっちゃったんだけどさ、こないだ実家買った時に一年の時の制服見つけてさ」 「いらないかもだけど…あげる!」 春はそれに、再び優しく笑った。 「秋の誕生日なのに、僕が貰っていいの?」 「うん!春に貰ってもらうのが俺にとってのプレゼントだから!」 そうして秋はしゃん、と姿勢を正してネクタイをクイ、と締めてから、かしこまった表情で言った。 「壱川春くん、卒業おめでとうございます」 春はそれにふふっ、と小さく吹き出して、そうして同じように姿勢を正し、ありがとうございます、と返した。

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