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第17話-3 思い出の場所

そうして体育館を後にして、二人は三年間過ごした教室へ向かった。 二人は当時の座席に腰を下ろした。 秋は前に座った春の背中を指でなぞった。 春はされるがまま、背中に描かれる文字をじっと考えている。 「分かった?」 「ふふ、分かったけど」 「言って」 「え〜」 「なんでよ」 そう言って春はくるっと振り返り、まるで自分の言葉のように言った。 「…すき」 秋は自分で言わせたのに、その言葉に赤面して机に突っ伏した。 そうして俯いて机に広がる秋の髪を、春はそっとなぞるように触った。 秋はそれに気付いて顔をあげ、髪を撫でていた春の手に甘く噛みついた。 あー、と春が声をあげる。 「また噛んだ」 それでも噛んだままの秋に春はふふ、と笑い、こら、と春は優しく言う。 そうして秋は春の手を噛むのをやめ、机に置かれたままの春の手に甘えるように頬擦りした。 春の指先がすい、と動き、秋の鼻先を撫でる。 「ふふ、猫みたい」 そう言った春に、えー、春犬派でしょ?と拗ねたように秋は言う。 猫も好きだよ、とそれに春は答える。 「春」 「ん?」 秋は体勢を起こし、手を伸ばして春の首の後ろをそっと包み込むようにして春を引き寄せた。 そうしてゆっくりと、唇を重ねた。 そうっと唇が離れ、二人の目が合った時、秋が言った。 「…いけないことしてるみたいな気分になる」 「…先生に見つかっちゃうかもね」 「……来ないよ 来たら足音でわかるし」 そう言ってまた、二人は唇をそっと重ねた。 そおっと静かに、二人の舌が重なる。 静かな教室に、二人の舌が交わって出る水音が響く。 その時、ふふ、と秋が笑った。 ん?と春が言うと、ミントの味したから、と秋が言った。 「ミント?」 「うん、焼肉屋さんのトイレにあったじゃん、口濯ぐやつ」 「うん」 「春もあれした?」 「うん」 「俺も…春とこの後キスするかなって思って…二回したんだよね」 それを聞いて、春は少し恥ずかしそうに笑った。 「春もキスすると思った?」 「……思ったよ」 何回?と秋に尋ねられ、ごめん僕は一回、と言うと、秋はあはは、と声を出して笑った。 そのあと二人は見つめあって、またおかしそうに笑った。

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