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「実は。近々、お姉様が北白川家にお戻りになられるそうなのです」
「何っ?」
怜士と丈士の兄弟の、さらに年上。
北白川 彩華(きたしらかわ あやか)は、長女としてこの家に生まれた。
聡明なアルファ女性で、将来を嘱望されていたが、父・忠志(ただし)は彼女を良家の富豪へと嫁がせてしまった。
いわゆる、政略結婚だ。
気の強い彩華は、もっと仕事をしたいと渋っていたが、結局は父の圧力に押された。
「お姉様には、もう5歳になる息子がいたはずだが」
「それが。その子も連れて、帰ってくるのです」
参ったな、と怜士は指先で顎に触れた。
先方に、跡取り息子は置いて行け、と望まれたに違いないのに。
「お姉様らしい、と言えばそれまでだが」
「怜士お兄様は、心強いのでは? お姉様は、外交に長けておいでですから」
「うん……。確かにな」
怜士が突然に忙しくなったのには、理由がある。
それは、国境を守る彼にありがちな、対外関係の問題からだった。
このところ、海を隔てた大陸の隣国が、この国の排他的経済水域で密漁を行っている。
これを、見て見ぬふりはできない。
かといって、密漁船を拿捕すると、その後が非常に厄介だ。
なにせ昨年この国は、何の予告もなしに、地下核実験を実行した。
世界中から非難を受け、経済制裁などを受けているが、全く動じないのだ。
怜士にとっても、悩みの種になっていた。
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