120 / 179

2

 虎太郎に腕を掴まれ、大げさに痛がっている丈士が、確かにそこにいる。 「痛い痛い、放せ!」 「丈士さま。どうして、ここに?」  倫は、不思議に感じた。  彼なら、今は彩華と光希に宛てた謝罪の手紙を書いているはずだ。  しかし、虎太郎の手から逃れたその姿に、すぐ納得した。  丈士は手に、白い封書を持っていたからだ。  ふぅふぅ言いながら、お茶の席へと近づいて来た丈士。  少し、ばつの悪そうな表情で、そこにいる面々を見渡した。 「10時には、ここに倫と怜士お兄様がいると思ってやってきたのですが……」  まさか、彩華お姉様と光希くんまで同席しているとは!  丈士は手紙を、怜士に託そうと急いでここに来たのだ。  謝罪は、早い方がいいと思ってのことだった。  事情を知っている倫は、にっこりと微笑んで丈士のスーツの裾を引いた。 「丈士さま、いい機会じゃないですか。ここはひとつ、口頭で」  その後、手紙を渡したらいい。  そう、倫は勧めた。 「そ、そうか。そうだな」  倫に勇気ときっかけをもらった丈士は、まず改まって頭を深く下げた。 「お姉様、そして光希くん。昨晩は大変に、失礼なことを申しました」  心より、お詫びします。  そんな素直な丈士の言動に、倫以外の人間はとても驚いた。

ともだちにシェアしよう!