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虎太郎に腕を掴まれ、大げさに痛がっている丈士が、確かにそこにいる。
「痛い痛い、放せ!」
「丈士さま。どうして、ここに?」
倫は、不思議に感じた。
彼なら、今は彩華と光希に宛てた謝罪の手紙を書いているはずだ。
しかし、虎太郎の手から逃れたその姿に、すぐ納得した。
丈士は手に、白い封書を持っていたからだ。
ふぅふぅ言いながら、お茶の席へと近づいて来た丈士。
少し、ばつの悪そうな表情で、そこにいる面々を見渡した。
「10時には、ここに倫と怜士お兄様がいると思ってやってきたのですが……」
まさか、彩華お姉様と光希くんまで同席しているとは!
丈士は手紙を、怜士に託そうと急いでここに来たのだ。
謝罪は、早い方がいいと思ってのことだった。
事情を知っている倫は、にっこりと微笑んで丈士のスーツの裾を引いた。
「丈士さま、いい機会じゃないですか。ここはひとつ、口頭で」
その後、手紙を渡したらいい。
そう、倫は勧めた。
「そ、そうか。そうだな」
倫に勇気ときっかけをもらった丈士は、まず改まって頭を深く下げた。
「お姉様、そして光希くん。昨晩は大変に、失礼なことを申しました」
心より、お詫びします。
そんな素直な丈士の言動に、倫以外の人間はとても驚いた。
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