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やがて紙面から目を上げて、彩華が微笑んだ。
「丈士さん。あなたの気持ちは、よく解ったわ。こんなに誠実に、お詫びいただけるなんて」
姉として、弟を誇りに思う。
晴れやかな彩華の表情に、丈士の緊張は解けた。
「お姉様。では……」
「もちろん、水に流しましょう。光希は、どうか解らないけど」
彩華の言葉に、一同の視線が一斉に光希へと注がれた。
そして彼もまた、にっこりと笑顔を見せたのだ。
「僕も、お母様と同じ考えです」
丈士おじさま、もう気にしないでください、とうなずく光希だ。
そんな母子に、丈士は泣きださんばかりの感激ぶりを巻き散らしている。
「ありがとうございます、お姉様! ありがとう、光希くん! 私は、私は……!」
丈士をなだめて席に着かせるのは、怜士の役割だ。
「何だか、子どもの頃を思い出すよ」
「丈士さんのお守りは、怜士さんのお仕事だったものねぇ」
笑い合う姉弟、そして倫と光希の元へ、リンゴのように甘く優しい香りが運ばれてきた。
「皆さま、お待たせいたしました。ローマンカモミールです」
和生が、光希の拭いた茶器に琥珀色のハーブティーを注ぐ。
「苦みがありますので、お好みでミルクを入れて召し上がってください」
カモミールは、リラックス効果が高いハーブだ。
カップを手に、倫は小さくうなずいた。
(だけど。皆さん、お茶が要らないくらい、くつろいでいらっしゃる)
和気あいあいとした、家族の肖像。
(いいな。こんな雰囲気)
微笑みながらも、少しだけ寂し気な倫の様子に、怜士だけが気付いていた。
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