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第二十八章 春風は吹く
「もっと、ゆっくりしていけばいいのに」
「すぐに、帰って来るから!」
名残惜し気な母に、倫は元気にそう言った。
両親に許された、怜士と倫との結婚。
朝、相羽邸を出る二人は、婚約者同士になっていた。
「本当に、すぐ帰ってくるのよ? 赤ちゃんできたら、大変よ?」
「え」
母の言葉に、倫は固まった。
(お、お母さん。僕がすでに、怜士さまとイチャラブしてることを知って……!?)
妊娠は、まだのはずだが!?
しかし母は、飄々と倫に知恵を授けるのだ。
「授かり婚、なんてことになれば、先方に迷惑がかかるし、それに……」
「……それに?」
「倫が妊娠を理由に結婚を迫った、とか。でたらめな陰口叩かれるのは、お母さん嫌よ?」
「お母さん……ありがとう」
母の真心に、ほろりと来てしまう、倫だ。
そんな、人の思いやりを素直に受け止めることのできるパートナーを、怜士は微笑ましく見ていた。
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