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その日、怜士は相羽宅に泊まることとなった。
倫の母が、どうしても我が子をここへ留まらせたがったからだ。
『でも、お母さん。僕の荷物は、まだお屋敷にあるんだよ?』
『後で、送ってもらえばいいじゃないの』
『お世話になった人たちに、ご挨拶だってしたいよ!』
『我がままを言うのねぇ、もう』
『それは、こっちのセリフだよ!』
結局、今夜はここに留まり、明日に再び怜士の屋敷へ戻る。
荷物の整理や挨拶などが済み次第、相羽家へ帰る、という形に収まった。
『せっかくですから、北白川さんも泊まって行ってください』
『わたくしも、ですか?』
『今夜は、パアッとやりましょう! 寿司は、お好きですかな?』
『どうぞ、お構いなく』
『婚約祝いですよ!? 構いますよ!』
賑やかな宴が終わり、怜士は客間に通されて倫と語らった。
「素敵なご家族だ。良い縁に巡り合えて、私は幸せだよ」
「すみません。怜士さまには、ちょっと下世話ですよね……」
「とんでもない。倫のご家族だよ? 皆さんのことが、大好きだ」
「ありがとうございます、怜士さま」
身を寄せ、頬を寄せ、口づけ合った。
新しい未来への一歩になる、キスだった。
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