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困ったような、何か言いたげな。
口を開こうとして、また止める。
そんな、奇妙な怜士の行動だ。
やがて彼は、改まって倫の手を握り直し、声を掛けてきた。
「倫」
「はい、怜士さま」
「……いや、そうではなく」
「はい?」
頬を染め、思いきり照れて、怜士は倫に打ち明けた。
「もう私のことを、怜士さま、とは呼ばないで欲しい」
「えっ」
「私たちは、パートナーになるんだ。対等な関係で、いたい」
「では、何とお呼びすれば」
「せめて、怜士さん、と。いや、慣れれば、怜士と言ってくれても構わない」
「え、う、わぁ……」
そんな!
怜士さまのことを、怜士、だなんて!
(ちょっと、それはさすがに抵抗があるなぁ)
どうだろう、とでも言うように、怜士は覗き込んでくる。
そこで倫も、頬を染め、思いきり照れて怜士の名を呼んだ。
「……怜士さん」
「ありがとう、倫」
二人が握り合う手に、力がこもった。
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