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郊外に立つ標高600m程度の山を、怜士と倫は訪問した。
決して高くはないが、神聖な場所もきちんと残っている、由緒正しい山だ。
アスファルトで舗装された道を、怜士の駆る自動車で登る。
途中から道は細くなり、アスファルトも砂利に変わった。
「倫、大丈夫か?」
「結構、揺れるんですね」
それでも、その振動すら倫には楽しい。
さらに進むと木漏れ日の林道となり、砂利すら敷かれていない。
「怜士さん、窓を開けてもいいですか?」
「どうぞ」
開け放たれた窓からは、木の匂い、土の香り、そして鳥の声が入って来る。
「うぅん、気持ちいい!」
「倫は、自然が好きなのだな」
ご機嫌な二人は、やがて北白川家の所有する山荘へ到着した。
さすがにその周辺となると、道幅も土地も広く取ってある。
車から降りた怜士と倫は、まず屋内へ荷物を置きに入った。
「あれっ?」
「怜士さん、どうしたんですか?」
「いや。やけに片付いてるな、と思って」
しばらく誰も立ち入ったはずのない場所なのに、塵ひとつ落ちていない。
空気も淀んではおらず、これではまるで……。
「まるで、事前に整えたような感じだな」
「怜士さん、テーブルに手紙が置いてあります」
木製の、アンティーク調のテーブルから、倫がクリーム色の封書を取り上げた。
怜士が受け取り中を改めたが、読む途中から彼の顔には苦笑が浮かんだ。
「どうかしたんですか?」
「倫も、読んでくれ」
便箋を受け取り、倫もその上の文字を追ったが、やはり怜士と同じく笑顔になった。
その手紙は、彩華からのものだったのだ。
『怜士さん、倫さん。まずは山荘の掃除から、と思っていたでしょう。時間が、もったいないわよ! わたくしが、人にお願いして済ませておきました。冷蔵庫にも、いろいろ詰めてもらったから召し上がってね。それでは、楽しいひとときを!』
姉らしい、気配りだ。
「お言葉に甘えて、楽をさせてもらおうか」
「すぐに、頂上へ向かいましょう!」
元気は、有り余っている。
二人、手を取り合って外へと飛び出した。
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