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第三十章 この時を止めたい
まどろみの中へ溶けゆくには、まだ心も体も熱かった。
木の香りのするベッドで、倫は怜士の胸の中にいた。
すでに一度、深く愛し合い、小さく震える倫。
そんな彼がたまらなく愛しく、怜士は強くその体を抱いた。
(怜士さん。こんなにきつく、抱きしめてくれてる)
少し、苦しい。
でも、嬉しい。
やがて腕が解かれ、その手は倫の頬を優しく挟んだ。
瞳を合わせ、二人微笑み合った。
「倫。お願いがあるんだが」
「はい」
「その、何だ。もう一度、……いいかな?」
「えっ」
君が、欲しい。
合わせた怜士の瞳が、輝いている。
欲情してギラついている、といった風ではない。
ただ心の命ずるままに、愛したい。
そんな素直な、素朴な。
ヒトの持つ、原初の感情に突き動かされている怜士だ。
「嬉しいんだ。君を愛することが、愛せることが、たまらなく嬉しいんだ」
「怜士さん……」
倫の応えは、言葉ではなかった。
言葉にできないほどの歓喜を唇に乗せ、怜士にキスを贈った。
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