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突然の電話に、驚いた倫だ。
コール音は、バッグから聞こえてくる。
「丈士さん、だったりして」
そんな冗談を口にして、無理に気分を上げようと頑張った。
残念ながらバッグの中には、丈士が与えた端末は無く、倫のスマホだけが鳴っていた。
「西区の、おばさんからだ」
発信は、母の四十九日の法要に出席し、納骨まで見送りに来てくれた女性だった。
母の従妹(いとこ)に当たる関係で、倫があまり詳しくは知らない人だ。
それでも彼女は母を慕ってくれていたらしく、読経の後の会食で、昔話をしてくれた。
「僕の家に、忘れ物でもしたのかな」
だったらなおのこと、早く帰らないといけない。
そんな風に考えながら、倫は通話を繋いだ。
「もしもし。倫です」
『倫くん。今日は本当に、お疲れ様。今、話せる?』
「大丈夫ですよ」
『実はね。息子が、お参りに行きたい、って言ってるの』
倫は、会食の時に聞いた、彼女の長男について思い出した。
(確か、うんと小さい時に、一度会っただけなんだ)
仲良く遊んだ、と聞いていたが、申し訳ないことに鮮明には覚えていない。
だが倫は、その長男の申し出を、ありがたく受けた。
急ぎ家へ帰り、部屋を暖め、湯を沸かし、彼が来るのを待っていた。
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