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母の納骨を終え、寂しくなった仏壇。
その前に座っていると、ひとりでに涙があふれてくる。
こちらの世界での時間は、全く流れていない。
だのに、本の中での濃密な体験は、一体なんだろう。
夢、と片付けるには、あまりにも鮮烈な思い出。
いや、まだ思い出に閉じ込めてしまうことなど、できやしない。
嗚咽が、強く結んだ唇の隙間から、漏れ出てくる。
「いけない。今から、お客さんが来るのに」
きゅっ、と顔を上げ、深呼吸をしたところに、チャイムが聞こえた。
西区のおばさんが話した、彼女の息子が到着したのだ。
「はーい!」
勢いよく立ち上がり、倫は玄関へと向かった。
「お母さんの従妹の息子さん、なら、僕の再従兄弟(はとこ)だよね」
そういえば、名前を知らない。
なにせ電話を受けた時には、魂が八割がた抜けたような状態だった。
聞いたけれども、覚えていない可能性もある。
失礼の無いようにしなきゃ、と考えながら、倫はドアを開けた。
「わざわざ、ありがとうございます。どうぞ、中へ……」
愛想よく繰り出した言葉が、途中で切れた。
代わりに、感情が突き出してきた声が、放たれた。
「怜士、さん……?」
そこには、心から愛した人が立っていたのだ。
「怜士さん。怜士さん、ですよね?」
ああ、お願い。
どうか、そうだと答えて!
黒いコートを羽織った礼服の男性は、ゆっくりとうなずいた。
「倫。会いたかった……!」
「怜士さん!」
倫は、玄関口まで素足のまま駆け下りた。
そして、愛しい人の胸の中へと飛び込んだ。
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