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第三十四章 新しい一歩

「母さん。今日は、倫の家に泊めてもらうから」  怜士からの電話に、母は驚いた。 『ちょっと待って。どうしたの、突然。そちら様に、ご迷惑でしょう?』 「倫と話していると、いろんなことを思い出せそうなんだ」 『……倫くんに、代わってもらえる?』  スマホを怜士から受け取ると、倫は重ねて宿泊を勧めた。 「おばさん、僕なら大歓迎です」 『でも。ご迷惑じゃないかしら』 「独りでいると、寂しいし。それに、怜士さんと一緒だと、心強いんです」  彼女はとても恐縮していたが、倫がそう言ってくれるなら、と怜士の外泊を許した。  通話を終え、笑顔の怜士だ。 「近いうちに、倫の住まうこの家へ、移ってきてもいいか?」 「もちろんです! あ、でも……」 「どうした?」 「狭いですよ、すごく。怜士さんのお屋敷に比べると」 「傍に倫がいるだけで、私は満足だよ」  さりげなく、だが確かに伝えられてくる、怜士の愛情だ。  倫は頬を染め、大きくうなずいた。

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