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 夕食が終わり、食器の片付けも済み。  交代でバスを使って、その後に怜士と倫は書斎へと入った。 「ここが、お父さんの書斎です」 「相羽男爵。いや、この世界での、倫のお父様だね?」 「はい。二年前に亡くなりました」  二人で話し合い、倫が迷い込んだ本を探して、読んでみることにしたのだ。  怜士がいた世界を描いた、小説だ。  互いの無事を喜び合った後には、心配が頭をもたげてきた。  彩華と光希、そして丈士。  大切な人たちのその後が、気にかかった。 「本のタイトルも、作家の名前も覚えていなくて。ごめんなさい」 「大丈夫、気長に探そう」 「ハードカバーなんです。緑色の表紙に、白い文字の」 「なるほど、解った」  二人は懸命に本を探したが、結局は見つからなかった。  元より少ない、父の蔵書だ。  これ以上がんばっても、もう出てこないだろう。 「もしかしたら。お父さんが亡くなって親戚が集まった時、形見分けで誰かが貰ってしまったのかも」 「その可能性は、あるな」  ごめんなさい、ごめんなさいと、しきりに謝る倫の髪を、怜士はくしゃりとなぶった。 「もう、いいんだ。お姉様と、光希くん。丈士も、きっと幸せを掴んでいるに違いない」  私がそう決めた、と怜士はきっぱりと宣言した。 「もちろん、倫のご家族も。相羽男爵たちも、息災だよ」  だから、倫も。もう、思い悩まないで欲しい。  そんな怜士の言葉に、倫は心が温められた。 「はい……。はい!」  書斎から出る二人は、笑顔だった。

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