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 大収穫だった、と怜士と倫はホクホク顔で山を下りていた。 「野菜に、肉に、卵。どれも新鮮でいい品だ」 「僕たちのお店にも、卸してもらえるといいな」  そうだ、と倫は両手をパチンと鳴らした。 「ソフトクリーム! あのお店の支店を、マーケット・相羽に出せないかな!?」 「何だって!」  怜士は自動車を路肩に停めてから、倫の両肩に手を置いた。 「何て素晴らしいアイデアだ、倫!」  これなら、ライバル店のアイスクリームショップにも、対抗できる!  頬ずりする勢いの、怜士だ。 「えへへ、褒めてもらって嬉しいな。それから、怜士さん。ありがとう」 「ん? 何がかな?」 「ちゃんと、車を停めてくれたでしょう。やっぱり、安全運転だね」  それはそうだ、と怜士は倫の下腹に手を当てた。  ここに、三人目がちゃんと息づいているのだ。  用心するに越したことはない。 「倫。少し、休憩しようか?」 「ありがとう。そうしてくれる?」  車を降りて、二人は外の空気を吸った。  山の緑の匂いがあって、清々しい。  幅が広く取られている路肩は、小さな展望台のような景色をプレゼントしてくれた。 「遠くに、海が見えるよ」 「ああ、そうだな」 「……ね、怜士さん」 「ぅん?」 「鳥に、なってくれるかな。僕、怜士さんの背中に乗って、ここから海へ向かって飛んでみたいな」  そんな、少し甘えたような倫の物言いだ。  しかし怜士は、その言葉の持つ重みを知っていた。  ちゃんと、覚えていた。  もちろんだ、と力強く応え、倫を抱き寄せた。 「海へでも、どこへでも。一緒に行こう」 「嬉しいな」  嬉しすぎてもう、言葉にできない。  何も、言えない。  だから二人は、言の葉を紡ぐ唇を、ただ合わせた。  心も合わせ、共に歩み進む契りを、しっかりと結んだ。

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