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第6話 お宅訪問!

 ――なんでこんなことに。  お屋敷といえばこんな感じ、と思える大きな建物を見上げて、僕は口をぽけっと開けたまま遠い目をした。  今日も今日とて職場まで会いに来たセレスは、「この前の礼がしたい」と言い出して、その内容も話さず僕を馬車に乗せた。  どこに向かうのかと尋ねれば自分の家だと言う。思わず無礼にも「は?」って聞き返してしまったけど、僕は悪くないと思う。  すでに向かっていると分かっていながらも、僕は貴族の家になんて行けないと抵抗した。平民どころか他人から見れば底辺の僕には怖すぎる。  けれどセレスは「大丈夫だ」の一点張り。説明が少なすぎない!?  セレスにはこういうところがある。会いはじめた最初の方はさすがに頑張っていたようだが、普段の彼は最低限の言葉で会話するのがデフォルトだ。  本人に悪気はないんだろうけど、だからこそ『孤高の』とか言われちゃうんだろう。セレスはそれさえ全く気にしてないから、どうでもいいけどさ……  そんな性格に慣れてきた僕は、なんとか目的地に到着するまでにあの手この手で、『大丈夫だ』という理由を聞き出した。  ふぅ。僕ってすごい。  セレスはカシューン侯爵家の生まれらしいが、自分に魔法の才能があったことで早々に家を出て研究者の道を志した。次男だったし、貴族らしい人付き合いに向いていない性格だと家族も分かっていたそうで、円満に侯爵家とは距離を置いているとのことだ。    したがって、いま向かっている家はセレス個人の持ち物である。侯爵家と聞いて一旦震え上がった僕はやっと安心したけど、それはそれで……  まぁいいか。家族がいないなら変にご挨拶とかしなくて済むし、「どこの馬の骨!」なんて罵倒される心配もないってことだ。  そんなこんなで、僕の家よりはだいぶ広いんだろうな〜、一軒家だもんな〜〜なんてお気楽な考えで到着したのだ。  セレスの持つ、お屋敷に。 「でか……」 「ウェスタ、こっちだ」  僕の知る一軒家とは規模がぜんぜん違う。しいて言えば、数十人住んでいた孤児院と同じくらいの規模感だ。それをすっごく立派にした感じ。  綺麗な庭園もある。孤児院では庭で食料の野菜を育てていたから雑然としていたけど、ちゃんとお花が咲き誇っていて、庭師がいます! というのが伝わってくる。  貴族じゃん……!  スン、と表情を無くした僕はもう諦めの境地だ。セレスに連れられるまま、玄関ホールに足を踏み入れた。  人が大勢いたらどうしようと不安があったものの、そこには家令がひとり立っているだけでホッとする。  おじいちゃんみたいな優しい雰囲気の、ロマンスグレーの髪を撫でつけたその人は、僕たちに向かって丁寧に頭を下げた。わぁ、丁寧に頭を下げられるのって生まれて初めてかも…… 「おかえりなさいませ」 「ヒュペリオ、準備は?」 「整いましてございます」  なんの準備? と疑問に思いつつセレスについて行くと、こぢんまりとした食堂だった。こぢんまり、と表現したけど僕の住む部屋くらいの広さはある。  マホガニーのテーブルにはクリーム色のテーブルクロスが掛けられていて、中心には高そうな花瓶が置かれている。白い小さな花をつけた緑鮮やかなアレンジメントが綺麗だ。なんとなく、その花の素朴さに胸があたたかくなった。    お礼ってこういうことか。僕がこのまえ徹夜のセレスを無理やり家に連れ帰って、ご飯を食べさせたことに対してだろうけど……普段おいしいものを食べさせてもらってるのはこっちなのに律儀な人だ。 「口に合うか? 礼なら自分で作ったものを、と考えたんだが、家令に止められてな」 「ん~美味しい! ふふ、セレスが自分で作ろうと思ったの? 料理とかしたことなさそうなのに……。料理人がいるなら、仕事を奪っちゃだめでしょ」  むっとした顔のセレスがちょっと可愛い。  たまに給仕が料理を運んでくるが、基本的に僕とセレス、家令のヒュペリオさんしかこの食堂にはいない。家令ってこんなものなのかな? ヒュペリオさんは空気のような存在感で皿を下げたり、飲み物を注いでくれたりしている。    おかげで僕はリラックスして食事を楽しんでいた。普段食べないものばかりがテーブルに並んでいて、魔力は摂れなさそうだけど、今日くらいは気にしないでおこうと思った。  牛肉だって値段が高いのもあって買ったことはなかった。一口大に切ってかぶり付くと、柔らかいのに肉汁が溢れ出てくる。こんなにジューシーで美味しいものだったんだ……。    料理に夢中になっていた僕は、幸せを噛みしめる顔をふたりが優しい目で見守っていたことには気づかなかった。    食事のあと、お礼を言った僕は家まで送ってもらうつもりだった。馬車でここまで連れてきたんだから、最後まで責任持って送り届けてくれるよね?  だから玄関の方ではなく二階のゲストルームのような場所に通されたとき、まだ何か用があったかなぁとのんきなことを考えていた。 「……ん? これって、パジャマ?」 「そうだ。今日は泊まっていってくれ。バスルームに湯も用意してある」 「ええ!? そんなつもりなかったんだけど……。セレス、別にお礼なんていいよ? なんだかんだいつもご馳走してもらってるのは僕なんだから」 「駄目か……?」 「ぐ」  セレスに眉をほんの少し下げて見つめられて、僕は手渡されたパジャマをぎゅっと握りしめた。うわっ、なんか触ったことないくらい柔らかい生地なんだけど!  ほとんど無表情なのに、アメシストの瞳にじっと見つめられると僕は弱い。強くお願いされたわけでもないのに、そんなに言うなら……と気づけば頷いていた。明日は仕事も休みだし、セレスが最初からそのつもりだったなら、断るのも悪いし。ね?  おやすみ、と挨拶をしてドアがパタンと閉まる。僕は改めてひと晩過ごすことになった部屋を見渡した。  壁や寝具は白く、ソファやベッドスプレッドには淡いグリーンが使われている。家具の木の色と相まって落ち着く色合いだ。このお屋敷に到着したときはその立派さに驚いたけど、全体的に内装はシンプルで意外と居心地がいい。派手さを好まないのはセレスらしいかも。    今日は十分な魔力を摂取できなかったから、水に濡らした布で身体を清拭する程度で済ませるつもりだった。湯を用意してくれたのがかなり嬉しくて、僕はいそいそとバスルームに向かった。 「ほわ……この香りが自分からするのってやばいかも」  湯を使ったあと、僕は用意してくれていたパジャマを着てごろんとベッドの上に転がっていた。  パジャマの着心地が良すぎて、その手触りをすりすり、ずっと手のひらで確認している。それはいいんだけど……これ、女性用な気がする。  ワンピースタイプのパジャマは足元がスースーして、まぁ涼しい。貴族の寝間着ってこんなものなのかもしれない。うーん、誰も見てないからいっか。  そしてバスルームにあった石鹸を使わせてもらった僕は、いつもセレスから香っている森林のようないい香りに包まれていた。  いつもと違うベッドに横になって、セレスのいい匂いに包まれてしまうと……変な気分になってくる。  そもそも、僕的にはもう長い間ご無沙汰なのだ。意識すれば意識するほど、ぞわぞわ身体が落ち着かない。 (あ。どうしよ……)  ひと様の家なのに、なんならその背徳感も作用して神経が高ぶってくる。自分の中心に血が集まってきているのを感じて、僕はそっと手を伸ばした。 「んっ」  パジャマの上から半勃ちになっているペニスをなぞると、待ちに待った刺激に声が漏れる。きもちー……  むくむくと欲望が成長するのを感じて、僕は開きなおった。どうせもう収まりもつかないし、一発サクッと抜いちゃえば気持ちよく寝られるはず!  ベッド横のサイドテーブルには、ランプに照らされるようにして保湿用の香油が置いてある。さっきは喜々として湯上がりのスキンケアに使わせてもらったそれを、もうちょっと拝借しても構わないだろう。  高級な服を汚してはいけないから、パジャマを捲り上げる。ズボンがないと、こういうとき楽だなー。  下穿きをずらせば、天を仰ぐペニスがぷるんと出てきた……自分のものだけど、元気です。香油を手にとって、塗り拡げるようにまぶす。  体温が上がってきて、ちょっと申し訳ないくらいにいい匂いが広がった。石鹸の香りと混ざると、なんともいえない妖しい芳香になる。 「ん、……あっ、ぁー……」  ちゅこちゅこと上下に扱くと、腰に痺れるような快感が溜まった。いつもひとりでするときより興奮しちゃってる……  どうしても漏れ出る声を抑えるため、僕はパジャマの裾を口に咥えた。  気持ちよくて頭がぼうっとしてくる。そろそろと、無意識にもう片方の手を昂ぶりの根本に動かして、会陰まで垂れてきた香油を塗り拡げるようにマッサージした。  蕾が勝手に期待してひくひくするのを感じる。さすがに指は入れない。でも香油の滑りを使って後孔の周りを撫でるだけで、ぞくぞくと快感が背筋を這い上がった。 「むぅっ。んん……んぁ……」  あふれる唾液でパジャマが濡れてくるのにも構わず、僕は集中して両手を動かした。  目をぎゅっと閉じる。否応もなく好きな人の……セレスの顔が脳裏に浮かんだ。 (あ〜〜〜挿れてほし…………)  どうしようもなくそう思いながらも、肌を重ねた記憶を掘り起こし……快感の頂点まで駆け上がる。陰嚢がきゅっと上がり、もうイきそうッ……  訪れる解放感に身体が備えたところで、  カチャ、  と部屋のドアが開いた。

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