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第18話 浄化、浄化、浄化!※
「は?」
「あっ……」
男も僕も、さすがに呆気にとられて扉の方を見た。扉が吹っ飛んだことで木屑のような埃が舞っている。部屋の外に真っ黒な人影が見える。
そしてその拍子に、お腹の中でじわっと何かが広がった。ここへ来るときに入れられた何かが溶けたのか、後孔へ向かって液体のようなものが垂れていく感覚がある。
しかしそれについて考える間もなく、事態は急速に進んだ。
突然登場した人物によって目の前にいた男が壁に叩きつけられ、うめく。黒いローブを纏った長身が、魔法で壁に拘束した男の首に手を掛けた。
「なんだお前! お前も、魔法師なのか? ……うがぁっ」
「セレス!! まって」
部屋に入ってきた瞬間、燃えたぎった瞳で見つめてきたのはセレスだった。なっ……なんでこんなところに?
扉のなくなった部屋の外も惨憺たる有り様で、僕を連れてきたメデーサとかいう女伯爵は床に座り込み、家令のスキュラも倒れている。娼妓たちはどうしよう、なにが起きた!? と周囲を駆け回っていた。だよね、気持ちはわかる。
この状況は、僕の盛大な勘違いでなければ……セレスが僕のために引き起こしたんだろう。
いい加減セレスが怒って暴走するのも見慣れてきた気がするけど、魔法師の男に対しては明らかな殺意を感じたから僕は大声を上げて止めた。こんな男なんかに、セレスが直接手を下してほしくない。
「まって……大丈夫だから」
「……大丈夫じゃないだろう」
男を壁に貼り付けたまま、セレスは僕の方へ歩いてきた。抑えきれない感情を表すように、声が震えている。
ま、そうだよな……。僕が身につけている薄っぺらいローブは乱れ、首には枷がつけられている。さらに顔は涙に濡れ、なおかつ白い粘液がそこかしこについている悲惨な状況だ。
僕はもう一度大丈夫だと念押しで伝え、自分の首を指差して「取って」とお願いした。セレスはすぐに行動し、僕の首についた枷を魔法で破壊したあと、浄化して僕を優しく抱き起こした。
「んあっ」
「……? どうした」
身体を動かすと誤魔化しようのないくらい、お腹の中が熱かった。お尻の奥が雄を求めてうずく。さっきのやつ……やっぱり媚薬か…………。
僕はお腹を抑えながらセレスを見つめた。目がまた勝手に潤む。どうしよう、どうしよう〜〜〜!!
「なかに、んっ……び……」
「び?」
「媚薬が……」
「…………場所を変えよう」
意識してしまうともう駄目だった。全身が熱く、じりじりとした性感が僕を炙る。中から垂れてきた粘液でお尻の入り口まで濡れているのを感じた。
くたっとセレスに体重を預けると、そっと抱き上げられる。いろいろ聞きたかったけど、とにかく僕の身体が落ち着いてからだ。頭の中に靄がかかってなにも考えられない。
「おい! 俺が買った奴隷だ!」
抱えられたまま部屋を出るとき、今さらながら男が僕たちに向かって叫んだ。セレスは振り返りもせずに小さく呪文を呟く。
縊られた鳥のような声が背後から聞こえたが、もう……それどころじゃなかった。
セレスが待たせていた馬車に乗って移動する。僕は少しの振動も快感に変わるのがつらくて、ぎゅっとセレスにしがみついたままだった。
吐き出した熱い息がセレスの首に当たる。セレスは「ん゛んっ」と咳払いしたあと、僕を膝の上に乗せたまま聞いてくる。
「ウェスタ、怪我はないのか? どこまでされた?」
「はぁっ。ない、から……。口で、しただけ。中も、確認でゆび、入れられただけ……っ」
「くそ! 全部浄化するから、ちょっと触らせてくれ」
「あぇ……」
口に指を突っ込まれた瞬間さっきのことを思い出してえずきそうになったが、浄化してすぐに指は抜かれた。体内など繊細なところへの浄化魔法は、直接触れる必要があるらしい。口の中に残っていた嫌な味がなくなってすっきりする。
そして薄っぺらいローブの下に手を這わせ、意味もないほど小さな下穿き越しに僕のお尻に触れた。途端に痺れるような気持ちよさが腰から広がって震えてしまう。前だって、さっきから痛いほど勃っている。
「はっ、ぁん!」
「ぐちょぐちょだな……悪い、中に触れて浄化するから」
おい! ぐちょぐちょなのは僕のせいじゃない! と一瞬叫びたくなったが、指がするりと入ってきて思考は霧散した。媚薬のぬめりのお陰で痛みどころか抵抗もなかった。
その指が、わざと良いところに触れたとかそんなのじゃない。
(セレスの指だぁ……っ)
そう思っただけで僕のナカは歓喜し、侵入してきた指をきゅんっと締めつけた。セレスはすぐに浄化して指を抜いてくれたけど、その刺激も相まって僕は……達してしまった。
「あぁっ!!」
上がりきっていた感度と解放感に、ガクガクと身体が痙攣する。
それが落ち着くと、身体の熱さやどうしようもない疼きは急激に消え失せていった。うわ〜〜、媚薬、こわ……。
正直、このままめちゃくちゃに抱いてほしいくらい余韻は残っていたけど、今じゃない。僕は思考を切り替えた。
「セレス、ごめん。でもなんで……」
セレスは僕が落ち着いて喋りだすや否や、ぎゅうぅぅ〜っと痛いくらいにきつく抱きしめてきた。
「ウェスタ……どうして、いなくなったんだ」
「え? どうしてって、――だって……だって、好きなんだもん」
「そ、それは誰のことを?」
「はぁっ? セレスに決まってる! ――好きになっちゃったから、僕みたいな底辺とは絶対に釣り合わないのが分かって……。見ただろ? 僕は何もしていなくても石を投げつけられるような人間なんだ」
はぁ〜〜っと長く息を吐いてから、セレスは身体を引いて僕を見つめる。しばらくそのまま見つめ合って言葉を待っていると、ガタンと馬車が止まった。
状況が状況なのでセレスは慌てて僕に浄化魔法をかけ、自分の黒いローブを僕に巻き付ける。
まだ腰の立たない僕はセレスに抱き上げられたまま、馬車の外に出た。
見るからに立派な、建物。
そこは――――ディルフィーの王宮だった。
侍従に案内され建物へ入ると駆け寄ってくる影がある。金髪に瞳はアクアマリンの美女、って……アステリア王女!?
「殿下!」と侍女さんたちが彼女を追いかけて窘めている。そりゃそうだ。王女様はふつう走らない。
「どうして君がいるんだ」
「……事後!?」
いままさに考えていたことをセレスが尋ねてくれたが、アステリアは僕とセレスを交互に見て、カッと目を見開いた。目が大きいから迫力があって怖い。
どうやらセレスは僕を追いかけて国を出るときに、アステリアからの親書を免罪符としてディルフィー王宮へ届けるよう依頼していたらしい。最初から暴れるつもりだったってことかぁ。用意周到だ。
親書は途中で何度も馬を変え速達で王宮へ届けられたが、アステリアも追いかけるようにアクロッポリを出立したらしい。世紀の瞬間に立ち会いたいとかなんとか言っていたけど、彼女がいると話が早いので僕たちも助かった。
「先に私から謝罪させてください、ウェスタさん。この国の問題に、あなたは巻き込まれてしまった。カシューン魔法師長が無理をして追いかけてくれなければ、どうなっていたことか……。滞在中はせめて、ゆっくり休んでくださいね」
急に王族らしさを見せたアステリアに戸惑いながらも、その言葉にセレスを見上げてやっと気づいた。無理していたという証拠に、最後に見たときよりもだいぶ顔に疲れが見える。
本来ならすぐに王と謁見して事の次第を説明すべきだが、すでに夜に差し掛かっている。僕には休息が必要だとセレスが譲らなかったので、その日はそのまま客室へと通された。
え、セレスと同じ部屋……? と思いながらも、王宮なんて落ち着かないしどうしていいか分からなかったからありがたい。
それに、僕たちには話し合うべきことがたくさんある。
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