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第38話 親友との再会

第四章  その後エリペールが回復するまでに、満月一周近くの時間を要した。  僕がラングロワ公爵家へ帰ってきてから、五日ほどは殆ど寝て過ごしていた。  目覚めてからは至って穏やかな時間を過ごしつつ、体を動かしたり仕事復帰へ向けての準備を進めている。  ブリューノはあの日、ゴーティエやブランディーヌと僕の出生についての可能性を少し整理していたようだ。  結論としてエリペールの回復を最優先とし、その後パトリスの話を改めて聞くのが良いのではないかと纏まったらしい。  そうして今日ブリューノがラングロワ邸を訪れ、エリペールとの再会を果たす。 「すっかり痩せてしまったな、エリペール」 「あぁ、心配をかけた。ブリューノがマリユスを見つけてくれたと聞いている。礼を言う」 「探したわけではない。偶然だ。しかし一年もパトリス先生と暮らしていると聞いた時は、これは大事だと内心焦ったよ。なんせ、マリユス君無しでは生きられない君だからね」 「異論はない。マリユスがいない一年間は、自分が剥製にでもなった気分だった。体がまるで言う事を聞かないし眠れない。最悪の時間だったよ」  リビングへと移動しながら積もる話を語り合う。 「正直、学校でマリユス君を見つけた時は責任を感じてしまってね。胸騒ぎをあれだけ強く感じたのは初めてだった。君がマリユス君を取り戻すために、僕と彼を引き合わせたとしか思えなかった。これは絶対にエリペールの許へ連れて行かねば、一生恨まれると冷や汗をかいていたよ」  ブリューノは、僕と会った日のことを苦笑しながら話した。  彼からは常に余裕しか感じていわなかったが、心でそんなに焦っていたと知って驚いた。  エリペールも同じように笑って「ブリューノに助けの念を飛ばしたのは有り得る話だ」と何度も繰り返し謝意を伝えていた。 「パトリス先生には会ったか?」  エリペールが訊ねる。 「あぁ、急遽マリユス君を連れ出した謝罪も兼ねてね。エリペールの容体をとても気にしていた。良い人なんじゃないのかな」 「そうかもしれないな」 「まだ疑う要素があるとでも言いたげだ」 「マリユスを――懇ろに扱ってくれた事は感謝している。しかしラングロワ家を知っていて、一度も連絡を寄越さなかった。その真意を確かめるまでは、全面的に善人だとは認められない」 「……君が学生時代から変わっていないのは、何となく嬉しく感じるよ」  ブリューノは「相変わらずマリユス君のこととなると形相が変わるから面白い」と無遠慮に笑う。  エリペールは罰が悪そうに不貞腐れるが、こんなやり取りができる間柄なのは少し羨ましい。  気兼ねなく何でも話せる二人を見ていると、学生時代に戻った気になれた。 「それで、この際とことん付き合おうと思っているが、パトリス先生はいつ呼び出しているのだ?」 「三日後の予定だ。まさかお父様が先生の話を聞く気になるとは、思ってもみなかった」 「しかし公爵夫人もマリユス君を奴隷商から引き取った際、幾つか違和感を感じていたようだ」 「それは私も今回初めて聞いた。なにせ当時五歳だった私は、マリユスに関するデータなど知る由もなかったからね」  ここでブリューノは気になっていたと言って質問をぶつける。 「あれだけ頑なにパトリス先生を拒んでいたのに、ラングロワ公爵様の意見があったとはいえ、よく受け入れたものだと思ったんだが」 「勿論、一番はお父様の決めたことに従ったと言うのがある。しかし、マリユスに聞けばパトリス先生は伯爵家へ婿養子に入っているとか……」 「まさか、パトリス先生にマリユス君の養子を頼む気なのか?」  ブリューノの言葉を聞き、僕も思わず「えっ!?」と声を出してしまった。  エリペールの口からそんな話は聞いたことがない。  しかしエリペールは一笑し、頷いた。 「とはいえ、それは最終手段だ。私もできればパトリス先生の恩を受けたくはない。だが先生は誰よりもマリユスを慕っている。私とマリユスが結婚するためなら、一役買ってくれるに違いない」 「全く……呆れて言葉が出てこない」  頭を抱えたブリューノと視線が合ってしまい、気まずくて肩を竦める。 「でも僕はパトリス先生のお姉様探しは賛成だ。マリユス君との関係性も、可能性がないとも言い切れない。それに単純に気になるではないか。バルテルシー伯爵は領民からも慕われているそうだ。そんな人が、一人の女性の失踪事件に関わっているかもしれないなんて、実に興味深い」 「私は何も諜報員になりたくて、パトリス先生を呼び出したのではない」  エリペールはパトリスの話題になると、心なしかため息が増える。  今でもパトリス自身が僕に好意を抱いていると疑っているようだ。  怪訝な表情で眉間の皺が深くなってはいけないと、ブリューノが気を利かせて話題を変える始末だった。  そうして三日後、予定時刻にパトリスはラングロワ公爵家を訪れた。

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