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第56話 解放する

 苦しくて息が出来ない。  しっかり解してくれた肉胴に、エリペールの男根が埋まっていく。 「っは、かっ……ぁ……」 「マリユス、息を吐いて」 「あ、は……」 「一度休憩を入れたほうが良さそうだ」 「だ、め……這入って……」 「このままでは発情期中の体力が保たない。体勢を変えよう」  エリペールは亀頭が少し這入ったままの状態で、器用に仰向けに寝かせてくれた。  自分の体重で、無理矢理押し込もうとしていたのがいけなかったようだ。横になると随分体が楽になった。 「マリユス、君の発情期は長いのだろう? 私はアルファだからいくらでも抱ける。それとも、もう少し意地悪をされなければ落ち着けないか?」  酷い息切れを起こしながら「すみません」と謝った。 「以前は寝込んでいるエリペール様に我慢出来ず……その……」 「マリユスから襲ってくれるなど、幸せでしかない。それで、今回は私の好きなようにして欲しいと?」  こくりと頷いた。  エリペールは「楽しませやてもらったけどね」嬌笑を浮かべ、緩やかに腰を揺らす。 「しかし、まだ完全にヒートに当てられているわけではないだろう?」 「なっ、何故……気付いて……」 「そりゃ、子供の頃からマリユスの香りしか嗅いでいないからね。ヒートのレベルなど、匂いで大体の検討はつく。しかし自我を持ちつつ、あんなにも可愛らしい責め方をされるとは思いもよらない。まさに幸甚の極みと言える」  匂いでそんなことまで判断されていたなんて、今まで教えてくれたことはなかった。 「無理をしなくとも、もう半分這入っている」  エリペールが結合部に視線を落として言う。  話しているうちに、気が紛れていたようだ。さっきのような苦しさは感じていない。  じわじわと込み上げてくる官能の波は少しずつ大きく押し寄せるが、まだ喋る余裕を残していた。 「ん、ふぅ……ぅん……」  ゆっくりと柔らかい腰の動きに合わせるように、さっきまでとは違う甘い声が漏れた。  エリペールはそれを上から眺めながら、嬉そうに目を細める。  覆い被さると前髪を掬い上げ、額に、頬に、眦に、キスを落としていく。 「ふふ……くすぐったいです」 「マリユスが良く笑うようになって嬉しいのだ」  エリペールがふと思い出に浸り始めた。   「ここに来たばかりの頃を覚えているか? マリユスは感情というものとは無縁で、笑うこともできなかった。それが今では笑い、泣き、困ったり、悲しんだり、感涙を流すまでになった。私はそれを嬉く思っている」 「エリペール様……僕を変えてくれたのは、紛れもない貴方です」 「あぁ、そうだな」  目を閉じてキスを受け入れる。くちゅりと絡まる舌が口中を滑るほどに、体の力が抜けていく。 「まだ、私の知らないマリユスを引き出したいと思っている。君は本当はとても感情豊かだろうからね」 「何故、そう思うのですか?」 「さっき、わざと意地悪をされているのに、自らもっと求めてくるとは思っていなかった。何度果てても更なる快楽を欲求してくる。どうやらマリユスは私が思っている以上に情欲的なようだ」 「そっ!! それは、エリペール様に喜んで欲しくて」  言い訳をしようとした瞬間、最奥を貫かれ、「ひんっ」と喘ぐ。 「では、これはもう要らないのか?」  腰を押し込みながら中を捏ねられる。 「や、もう、意地悪しないでください」  エリペールが肩を揺らして哄笑する。  一生かかっても、この人には敵わないのだろうと思った。  エリペールは腰の動きを止めると、首元に顔を埋めた。 「早く、頸を噛みたい」フェロモンの匂いの濃い場所を舐める。ゾクゾクと戦慄いて、しかし自分もその時を心待ちにしていると伝えた。 「徐々にヒートが増しているが、きっと一番強くなるのは明日だろう。自然にその時を迎えるのが良いのだろうが、私も我慢ができなくなってきた。アルファ性を解放させてもらう」  瞬時にエリペールの目付きが変わり、放たれるオーラに媚薬でも含まれているかの如くオメガの本能を刺激される。  ごくりと唾を飲み込んだ。  孔からオメガの液の分泌を促され、更に滑りがさらに良くなった。  グチュリと卑猥な音を鳴らしながらエリペールの男根が浅いところまで引き抜かれ、一気に奥まで突き上げた。 「んぁぁああ!!」 「オメガをフェロモンを放て、マリユス」 「んっ、ぁぁ……もっと、激しく……して……」 「っく……」  熱が急上昇する。  秘部の中で、熱塊が太さを増した。 「甘い、この匂いが私の判断能力を妨げる。本能のまま、欲剥き出しに求めてしまう」  それでも、何時までも酩酊していたいとエリペールは言う。  僕も同じだ。  エリペールの匂いだけで生きてきた。気が付けば、石積みの塔で住んでいた時間よりも長くエリペールと一緒にいる。  薄暗い、湿気臭い、不衛生な場所だったという記憶はあるものの、それが実際どうであったかまでは思い出せない。  そのくらい、僕の細胞はエリペールの匂いで埋め尽くされているのだ。  律動が早まる。  突かれる度に白濁が飛沫し、孔からはオメガの液が弾け飛ぶ。  ただ二人は一つの目標に向けて、快楽の波に溺れていくのだった。

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