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第1話
暑い夏を超えて穏やかな秋を迎える。人生とはそう言うものだと思っていた。誰の人生にも四季があり、最後にひっそりと生涯を閉じる。それがいいのだと思っていた。しかし、改めて考えると仕事優先の人生では、家族に彩られた季節は無かった。気がつけば、一人吹雪の中に取り残されていた。
「旦那様、お食事の支度は出来ております」
「ああ、すまない。葉月は今日は?」
「奥様はご実家の方へお嬢様をお連れでお出かけになりました」
形ばかりの家族の中に自分の居場所はない。
娘は可愛い、この家族を壊す気も捨てる気もないが、妻からはとうに見限られている。必要とされていると言う自覚もない、ここに居る意味さえ見失ってしまった。「潮時かな」と思う日もないわけではない。
「ありがとう、今日はもういいよ。あとは自分でやっておくから」
通いのお手伝いさんが帰ると、部屋の温度がさらに下がった気がした。冷たい空気に晒されてぶるっと身体が震えた。
後何年生きなくてはいけないのだろう、その期限が来るまでの辛抱だ。お見合いで一番条件のいい人を選んだ。それが幸せだと考えていた。そして、ある程度の財も地位も手に入れた。これ以上何も望むものはないはずだと自分に言い聞かせる。
欲をかいては駄目なのだ。虚しい気持ちになりながら、冷めた味噌汁を暗いダイニングですすった。
突然、携帯が鳴った。暗がりに火がともるように浮き上がってきた番号は、見知らぬ相手からの着信を知らせていた。普段ならそんな電話には出ない。けれど、誰かと話したかった。誰でもいいから、話がしたかった。
「はい」
「もしもし?親父?亮也 だけど、駅前に迎えに来てくれない?傘忘れてさ」
間違い電話なのか?
「雨が降っているのか」
「え?家の方降ってないの?」
「いや、亮也君、残念ながら君のかけた番号は間違い電話のようだね」
「そんなはず……あれ?え?」
電話はぷつりと切れた。
一体どこの子なのだろう、北海道なのか沖縄なのか。言葉は標準語だったなと考えて窓の外を見た。その時雷鳴が響き、雨が勢いよく降り出した。
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