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第11話 エピローグ

 娘を学校へ送り届け、事務所に着くとパソコンの電源を入れる。モニターに映し出されたのは、自宅の書斎でシュレッダーから細く紐状に刻まれた紙を取り出す亮也の姿だ。しばらくパズルに取り組んで、あの手紙が探偵事務所からの請求書だと分かったようだ。  「さて、どうするのかな?」  モニター越しに聞こえるはずのない亮也に声をかけた。携帯でその請求書の写真を撮っているのが見えた。そして何事もなかったかのように全ては元の場所に戻された。その表情は面白い遊びを見つけた時の子どものものだ。ああ、本当に思った通りの子だ。  「へえ、気が付かなかったふりすんのかな」  横から同じ画面を覗いていた周栄(しゅうえい)が面白そうに笑った。  「奥さんは俺に押し付けておいて、自分は新しい恋人とか妬けるんだけど」  「ん?小遣いもらう口が増えたと喜んでいたのは誰だっけ?」  口を尖らせて少し拗ねたふりをする仕草が幼く可愛らしく見えるが、実際のところ金が正義だと信じている。そのぶれないところが一番気に入っている。多少下半身が緩いところがあるが、この見てくれでは仕方ないだろう。  「新しい恋人じゃないよ。私の新しいパートナーだろう?」  「で、いつ俺に弟君を紹介してくれるの?今から楽しみだな。本当のこと知ったらどうするのかな?」  「さあ、どうだろう?お前はどうだった?」  「もう大昔の事で忘れたよ」  「まずは私自身を信じてもらい、理解してもらってからだ。まあ、仕事を教えるのが先だろうな」  「詐欺師って仕事かよ」  けたけたと周栄が笑う。モニターの電源を落とそうとした時に、また書斎の扉が開いた。亮也が部屋に入ってきた。迷いもせずに真っすぐに隠しカメラに近づいてくるとレンズに向かって左手の中指をたてて、にやりと笑った。  「おや?お前に紹介する日も近いようだね」  その様子を見て心が踊った。ぞくぞくする、この子らを手に入れられたという事実に。これだけの年齢差だ、いつの日か逆転する、その日は遠くない。それまではこれから来る人生の暑い夏を楽しもう。

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