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第4話

結局何が言いたいかというと。 「景さんには、今世では幸せになってほしいから」 出てきたのは、自分でもビックリするほどストレートな台詞だった。 間違いなく本心の為、内容自体は後悔してない。でも絶対、他に言い方があった。 いかん……。 ドン引きさせたかもしれない。恐る恐る隣を見ると、景さんは顔を背け、口元を隠していた。 「景さん? すみません、やば……変なこと言って」 「……いや」 待ってみたけど、続きの言葉はない。出発早々やらかしたと、自己嫌悪で項垂れた。 どれだけ前世で共に過ごしていても、今の俺達は他人だ。必要以上に踏み込んではいけない。 今の景さんは、前世の“彼”とは違うんだ。接し方を間違えるな。 でも……でも本音を言うと、景さんのことをもっと知りたい。 ぶっちゃけ、俺は景さんに好かれてるとは思えない。彼は誰に対しても基本ドライみたいだけど、雑談なんてまず振ってこないから。 無駄話をしない。即ち興味の対象外。好きの反対は無関心、という言葉が嫌でもまとわりついた。 フロントガラスを眺め、不意に隣に視線を移す。 すると暗がりの中でも、彼の耳と頬がほんのり紅潮しているのが分かった。 何だ? 驚き、思わず手を伸ばしかけたが。 「お前は?」 「え?」 「恋人はいるのか」 低いトーンで尋ねられる。ドキッとして、手を引っ込めた。 初めてプライベートなこと質問された……!! 俺が最初に訊いたから、っていうのが一番でかいと思うけど。それでも尋常じゃなく感動する。気持ちが昂る。 「あはは。いたらやっぱり、週末の予定は埋まってますね」 素直に答えると、彼は目を眇めた。 「お互い杞憂か」 ギシ、とシートが軋む音が響く。 景さんは規則的にハンドルを指で叩いた。 「でも、フリーなら尚さら警戒しないと」 とん、とん、とメトロノームのように、蠱惑的な声とシンクロする。無意識に、彼の一挙一動に集中していた。 「自衛はしておけ。今さらだけど、俺に連れ去られる危険を考えたことは?」 「え。ありません」 考えるより先に口から零れた。 「だって……ずっと会いたかったから」 むしろ質問の意味が分からないという様に、見つめ返す。 珈琲のボトルを彼の左手に添えた。彼はそれを受け取り、肩を竦める。 「やっぱり危険だな」 ウィンカーを出し、右の車線に移る。さらにスピードを上げながら、可笑しそうに口端を上げた。 「飲み込まれそうだ」 ……? 何のことか分からないが、それは独白だったのかもしれない。ラジオを聞きながら、都築はシートベルトを握り締める。 過去も未来も洗い流す、短い旅が始まった。

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