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第9話 昔がより懐かしく

 五十嵐に続いて、イベントのことなどで質問タイムが続く。いくつか答えたあと――。 「他に質問はあるかな……? 無ければ作業の説明に……」 「じゃあ、最後に……」 「はいどうぞ」 「えっと。先輩は、どうしてそんなにカッコよくなったんですか?」  「えっ」  家庭科室は、ざわめきに包まれた。 「先輩、かっこよすぎですよ~……!」 「大学行ったら人って変わるんですね」 「先輩の先輩も、イケメンすぎだし!」  オレが首を傾げている間にも、教室は大盛り上がり。 「あの……結愛に鍛えてもらって……」 「結愛ちゃん、すごーい!」  きゃあきゃあと声を上げる後輩たちに、なんだかもういっそ穴があったら入りたい気分だった。  褒められているのか、どんだけ前がアレだったと言われているのか……。  その横で、先輩は肩を震わせながら笑っている。 「先輩、笑わないで下さいよ、余計はずかしいし……」 「イイじゃん、皆、宮瀬に憧れてるみたいだから。もっと自信持ってさ」  クスクス笑いながらそんなことを囁いてくる。  ――ああもう、ただでさえ照れてるのに。  皆の視線より、隣からの視線のほうが落ち着かない。  一通りはいろんな話に付き合ってから、気持ちを切り替えて、さて、と息をついた。  まず離れた机に、販売用のと、ワークショップ用に分けて物を置いた。  見本のぬいを見て、皆が「可愛い~!」と歓声が上げた。 「先輩のぬいを見て、手芸部に入ったんです~」 「会えて嬉しいです」  なんて言ってくれる子が二人も居て、えっ、と耳まで赤くなった。 「……ありがと」  小さく返す。その瞬間、また隣から視線を感じて、余計に心臓が落ち着かない。  そこからは、販売用のぬいの作り方の説明。  水族館シリーズ、動物園シリーズと、天使くんと天使ちゃんシリーズ。 「これね、シリーズ物なんだけど……たくさんの種類をつくるより、同じぬいをひたすら作った方が早いし、上手にできるんだよね。……分かる?」  皆、はい、と頷く。 「だから、この中で、自分が好きな子を担当して、シリーズで数を合わせてほしいくて。オレも、たりないぬいの、数をふやしたりいろいろするから。忙しくてできないとかでも大丈夫。言ってくれたら」  とりあえず好きなぬいを一個選んでもらう。  机の上に広げられた布を型紙に合わせ、はさみを入れる。  皆も同じように切っていく。 「ちょっとずれてても、むしろ可愛いから……」  カットのずれを気にしていた女子に声をかけると、ぱっと表情が明るくなった。 「買う人もさ、自分にとって可愛い子を選ぶから。そんなに神経質にならなくていいよ」 「はい」  にっこり笑う皆。  そうだ。なんか――部長なんて役、ほんとは嫌だったのだけれど。  よく思い出せば、ここに居るのは、割と楽しかったような気もしてきた。  皆、可愛いぬいを作りたいからって目的もあって、いつもちゃんと言うこと聞いてくれてたし。  なんだかより昔が懐かしく、良い物に思えてきた。

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