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第28話 壁打ち
「……宮瀬って、ほんと真っ直ぐだよな」
先輩は、また膝に顔を伏せて、今度は少し沈んだ声で続けた。
「……オレ、誰にも言ってないことがあるんだけど」
そう言ってから先輩はしばらく黙る。
「……宮瀬の昔の写真見せてくれたら話そうかなぁ」
「えっ」
咄嗟に声が漏れたオレに、先輩はクスッと笑って「嘘」と言った。
「そんな、大したことじゃないよ」
「――無理に言わなくてもいいですけど……」
そう言うと、先輩はオレを見て、少し考えてから、首を傾げる。
「話さないでイベント出ない、は無し……?」
「……イベントは、オレが頑張らなきゃいけないことで、先輩は出なきゃいけない訳では、ないです。だから話さなくても出なくても、それは先輩の自由です」
「――」
「でも……聞きたいです。オレは」
静かな空気の中、見つめ合う。
すると、先輩は、ふ、と苦笑した。その笑い方に、はっと気づいて、オレは口元に手を当てた。
「あ、ほらあの……一人で考えてると、どんどんドツボにはまるっていうか。まあオレは 大抵いつもそうなんですけど。被害妄想とかも入ってきて、なんかこう、あんまりよくない方向に考えちゃったり、あ、それはオレの場合で、先輩はそんなこと無いかもしれないですけど、あの……もしそれを誰にも言ってないなら、試しにオレに言ってみて貰えたら……オレはそういうの誰にも話さないし、そんな話すのも得意じゃないし、つか、先輩の大事な話、オレ絶対、墓場まで持っていくので、安心してほしくて……っあ、よく言う壁打ちってあるじゃないですか、あれみたいな、声に出すと考えもまとまるだろうし、オレが一応聞いてるので、一人よりは寂しくないかもっていうか」
「……っぷ」
オレが延々喋ってる間無表情でオレを見つめていた先輩は、余計オレが焦り出すと、不意に噴き出した。
「え?」
クックッと笑いながら先輩は「無理……」と言いながら、笑ってる。しばらく笑った後、何だかオレは必死だったのに遊ばれてた感がして、むむ、と口を閉ざしていると。
「あ、怒ってる?」
先輩はオレを見て、ふ、と笑うと、ぽんぽんとオレの腕に触れて、ゆさゆさ揺らしてきた。
「ごめんって。なんか必死で面白くて――あとなんか……ちょっと嬉しくて」
ふふ、と笑いながら、オレの腕に触れたままの先輩。
かなり至近距離で自然と上目遣いで――はー。無理。死ぬほど可愛いな……。
「……宮瀬に壁打ち、してもいい?」
「……先輩の話なら、何だって聞きます」
そう言うと、先輩は、じっと静かにオレを見つめた。
「よくある話だと思って、聞いてて?」
「……」
それには頷かないまま。先輩を見つめる。
だって、先輩がこんな感じになるのに、よくある話とか、思えないから。
すると、先輩は少し笑いながら、視線を逸らして、話し始めた。
「……オレね、中学ん時にカメラ始めたんだよね」
そう言って、俯き加減に視線を落とした。
「父さんが持ってた古い一眼があってさ。なんとなく触らせてもらったら、シャッター切るだけで世界が切り取られるのが、めちゃくちゃ面白くて……それで夢中になった」
そうなんだ。中学の時の先輩か。キラキラしてただろうなぁ。なんて思う。
「うちの父さん、ネット関係の会社やっててさ。兄貴はそこでデザインとかやってるの。カメラ、喜んで触ってたら、ほしいカメラはあるかって言われてさ。調べてめっちゃいいカメラを言ったら、ほんとに買ってくれちゃったわけ……」
「……はい」
「イイ写真が撮れるようになったら、会社で使ってもいいぞ、とか言われて。……オレはそれ、めっちゃ嫌だったわけ。うち、兄貴がめっちゃ優秀でさ。小さい頃から、いい後継ぎがいてよかったね、とか言われてて……オレ、あの二人の会社に入るとかやだし。でもまぁ、カメラは楽しくてさ。写真撮るのも好きで……いい写真撮れるようになっても、入らない、ってあの頃のオレの意地、みたいな? わかる?」
「分かります……何となく」
「うん」
ふふ、とちょっと安心したように笑って、先輩はオレを見る。
「父さんも兄貴も周りがすごいすごいって言っててさ、あの頃、比べられんのも嫌で……だから余計に、自分の世界を持てる気がして。カメラって、そういう感じで……楽しかったんだ」
テーブルの上からカメラを手に取ると、昔を懐かしむみたいに、先輩が目を細める。
「あ、このカメラは二代目だよ」
ふふ、と笑って、オレを見てくる。
楽しそうに話す先輩の顔を見て、ちょっと安心する。
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