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第27話 待て待て

 先輩に、それでいいのかと聞いた、自分の声が掠れるのが分かって。情けないなって思ったけど、目だけは逸らさなかった。  先輩は苦笑してレモンサワーを飲んでる。普通に見える。 「先輩、楽しみにしてくれてましたよね? ……皆も、当日先輩に会えるの、楽しみにしてます」  言葉を出すたびに心臓が跳ねるみたいだった。  大好きな人に。  ……無理をするように、言ってるのかもしれないと思うと、辛い。  でも……先輩が本当にこれで当日来ないってことになったら。  たぶん、逃げたみたいに、心に残ると思う。それはなんか……。  なんか、きっと、良くない。 「オレ、ずっと、一緒にいるので。楽しいことしか無いようにするので」  なんかもっとうまく言えないものだろうか。  結愛だったら、なんて言うだろうと考えるけど……そもそも結愛とは考え方の基盤が違う。思いつかない……。  とにかく……行かないっていう選択肢は、別にありなんだけど……今この状況での、行かないっていうのは……先輩の気持ち的にはしない方がいいと思う、訳で。  いやでもな。どれくらい嫌なのかも分からないから、やっぱり無理はさせない方が……?  そうだよな、そもそも先輩みたいな人が、こんなになるだけのことがあったんだろうし。  また高速でいろいろ考えていると。 「宮瀬、乾杯」 「……え。あ」 「乾杯」  缶をカチンと、合わせる。  ひと口飲んだ後、先輩がふっと笑った。 「ほんとまっすぐなー、宮瀬……」 「……すみません。余計なこと、だったら」 「んん? ……へーき」  はあ、と先輩が息を吐く。  ……酔ってそう。顔赤いし。立てた膝に、こてん、と顔を付けた。 「宮瀬はカッコいいよな」 「――」  突然のセリフに、瞬きするだけで返事が出来ない。 「なんか、流されないし。大事なものはこれっていうのが、ある気がする」  声、ふわふわしてて。もしかして、眠っちゃうのかな、みたいな。 「昔の写真見せてくれないけどさぁ……でも多分、昔も今も、顔は変わってないんだからさ。カッコよかったんだと思うよ……告白した子がいるくらいなんだからさ……それに今はさ、宮瀬のこと、皆、イケメンだと思ってるよ」 「――」  ……突然の褒め殺し……?  イベント回避のためのご機嫌取り……じゃないよな。そんな計算をする人じゃない。  酔った先輩が、ただ嬉しいこと、言ってくれてるだけな気がする。 「でも……宮瀬は顔じゃないんだよなぁ……陰キャとかコミュ障とかいうくせに、たまにズバリでさぁ……」  膝に置いた腕に顔を突っ伏しちゃってるので、顔は全然見えない。  声は完全にふわふわ酔ってる。 「そういえば……結愛ちゃんと似てるね……面白いね、話した感じ、最初は違うのに」  似てるかな? 「否定しないとことか……優しいとこ、すごく、似てる。宮瀬兄妹、いいよね」  少しだけ顔を上げてこっちを見て、先輩が、クスッと微笑んだ。  ――胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに、息が詰まった。 「…………」  オレ、今。顔には、出してはないと思うけど。むしろ強張ったような。  ――不意に、抱き締めたい衝動に駆られて。  今、本当に、驚いた。  人を抱き締めたいなんて、自分が思うなんて。  しかもこんなに強い気持ちで。  ……待て待て待て待て、落ち着け。  可愛すぎるけど、酔ってる。  しかも、なんか今ちょっと、弱ってる。  そんなことしたら、終わる。  心臓がバクバクしてる。  ノンアルを、ぐい、と流し込んでしまった。

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