78 / 79
第27話 待て待て
先輩に、それでいいのかと聞いた、自分の声が掠れるのが分かって。情けないなって思ったけど、目だけは逸らさなかった。
先輩は苦笑してレモンサワーを飲んでる。普通に見える。
「先輩、楽しみにしてくれてましたよね? ……皆も、当日先輩に会えるの、楽しみにしてます」
言葉を出すたびに心臓が跳ねるみたいだった。
大好きな人に。
……無理をするように、言ってるのかもしれないと思うと、辛い。
でも……先輩が本当にこれで当日来ないってことになったら。
たぶん、逃げたみたいに、心に残ると思う。それはなんか……。
なんか、きっと、良くない。
「オレ、ずっと、一緒にいるので。楽しいことしか無いようにするので」
なんかもっとうまく言えないものだろうか。
結愛だったら、なんて言うだろうと考えるけど……そもそも結愛とは考え方の基盤が違う。思いつかない……。
とにかく……行かないっていう選択肢は、別にありなんだけど……今この状況での、行かないっていうのは……先輩の気持ち的にはしない方がいいと思う、訳で。
いやでもな。どれくらい嫌なのかも分からないから、やっぱり無理はさせない方が……?
そうだよな、そもそも先輩みたいな人が、こんなになるだけのことがあったんだろうし。
また高速でいろいろ考えていると。
「宮瀬、乾杯」
「……え。あ」
「乾杯」
缶をカチンと、合わせる。
ひと口飲んだ後、先輩がふっと笑った。
「ほんとまっすぐなー、宮瀬……」
「……すみません。余計なこと、だったら」
「んん? ……へーき」
はあ、と先輩が息を吐く。
……酔ってそう。顔赤いし。立てた膝に、こてん、と顔を付けた。
「宮瀬はカッコいいよな」
「――」
突然のセリフに、瞬きするだけで返事が出来ない。
「なんか、流されないし。大事なものはこれっていうのが、ある気がする」
声、ふわふわしてて。もしかして、眠っちゃうのかな、みたいな。
「昔の写真見せてくれないけどさぁ……でも多分、昔も今も、顔は変わってないんだからさ。カッコよかったんだと思うよ……告白した子がいるくらいなんだからさ……それに今はさ、宮瀬のこと、皆、イケメンだと思ってるよ」
「――」
……突然の褒め殺し……?
イベント回避のためのご機嫌取り……じゃないよな。そんな計算をする人じゃない。
酔った先輩が、ただ嬉しいこと、言ってくれてるだけな気がする。
「でも……宮瀬は顔じゃないんだよなぁ……陰キャとかコミュ障とかいうくせに、たまにズバリでさぁ……」
膝に置いた腕に顔を突っ伏しちゃってるので、顔は全然見えない。
声は完全にふわふわ酔ってる。
「そういえば……結愛ちゃんと似てるね……面白いね、話した感じ、最初は違うのに」
似てるかな?
「否定しないとことか……優しいとこ、すごく、似てる。宮瀬兄妹、いいよね」
少しだけ顔を上げてこっちを見て、先輩が、クスッと微笑んだ。
――胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに、息が詰まった。
「…………」
オレ、今。顔には、出してはないと思うけど。むしろ強張ったような。
――不意に、抱き締めたい衝動に駆られて。
今、本当に、驚いた。
人を抱き締めたいなんて、自分が思うなんて。
しかもこんなに強い気持ちで。
……待て待て待て待て、落ち着け。
可愛すぎるけど、酔ってる。
しかも、なんか今ちょっと、弱ってる。
そんなことしたら、終わる。
心臓がバクバクしてる。
ノンアルを、ぐい、と流し込んでしまった。
ともだちにシェアしよう!

