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第39話 ただの作業です

 食事を片付けてから、またローテーブルに移動した。  朝の光とは、違う。今度は白っぽくて眩しい。  テーブルに布を広げ、オレはいつものようにちくちくと縫い始める。手元に集中していると、カメラのシャッター音が静かに響いた。  今度は、先輩くんを作りながら。  まさか、先輩くんの別バージョンを、先輩の目の前で作ることになるとは。  しかもそれ、先輩にあげる予定。  しかも、その制作風景を、先輩が写真で撮ってくれてる。  ……はて。何この状況。  夢とかじゃないよな?  大分おかしいかな、これ。  うーん、と考えながらも、着々と手を動かす。  顔を上げると、先輩は真剣な表情でカメラを覗いている。 「……縫ってる手の感じ、いいなぁ。自然に触っててね」 「はい」  先輩に見られてるの、緊張する……。    また朝と同じようにいろいろなぬいたちを撮ってもらった。  それから、裁縫道具とかの小物もいろいろ、撮ってから、先輩はカメラを置いた。 「よし。終わり!」 「あ、はい」  終わりか、と片付けようとしたら、先輩は「待って待って」と隣に座ってきた。 「どうしたんですか?」 「あのさ、宮瀬、オレも作りたい」 「え?」 「一体、作ってみたい」 「え、マジですか?」 「うん」  ふふ、と楽しそうに笑う。 「昨日みたいな、ボンドで作る奴がいいですか?」 「んー……そう、だなぁ……でも、あれはあれで可愛いけど、今宮瀬が作ってるのとは少し違うよね?」 「そうですね、少し厚みとかいろいろ……」  オレがそう言うと、先輩は、うーん、と考えた後。 「やっぱり縫いたい。ちょっとは習ったじゃん。学校で。出来るかも?」 「やってみますか?」 「うん。宮瀬が教えてくれればいけるはず」 「分かりました。じゃあ……」  意外すぎる言葉に驚きつつも、針と布を渡す。  先輩は少し眉をひそめながら糸を通し、恐る恐る縫い始めた。  ……すごい一生懸命。めっちゃ可愛いな。  なんでこの人って、こんなに可愛いんだろう。 「途中で綿をつめるので。声かけますね」 「うん。分かった」  ちくちくちく。  先輩、真剣。一言もしゃべらない。 「あ、そこ、糸、引っ張りすぎかも……もうちょっとゆるくても平気ですよ」 「……こう?」 「はい、それで大丈夫です」 「んー……難しいね」 「最初はだれでもそうですよ」 「……ん」  ――真面目な横顔が、可愛すぎる。  ある意味。カメラよりも真剣かも。  ちょっと不器用な感じが可愛いけど、なんとなくちゃんとくっついていってる。  オレも、普段より大分ゆっくりにして、ひと針ずつゆっくり縫っていく。  先輩と、隣に並んで、ぬいをちくちく。  ――何だろうこれ。  先輩と並んで、おなじこと。  お揃いっぽい空気がして。なんか嬉しいなあ。  ……これって、休日におそろいの趣味やってるカップルみた……。  いやいやいや違うだろ、落ち着けオレ。ただの作業。作業です。  でも、オレと一緒にぬいを縫ってくれる人がいるとは……。  それが、先輩だってこと。幸せすぎる。  ほんと、可愛いというか、もう、 一生懸命なところ、愛しすぎるというか。  ていうか、愛しいとか思っちゃってる時点で――オレ、もうアウトでは?  いやいやいやいや。考えるなオレ。余計なこと考えるな。  あっつくなってきた。  ちゃんと縫うことに集中しろ。  ちくちくちく。  不思議すぎるけど。  ……楽しい。  こんなにのどかな幸せ空間て、この世に、他にあるだろうか。  ……ふと気付くと、先輩は、めっちゃくちゃ肩に力が入ってるので、もしかしたら幸せ空間ではないかもしれない。 ふ、と笑ってしまいそうになりながら。 「先輩、もう少し、肩から力、抜いたほうがいいですよ」 「えっ……」 「固まっちゃってます」  オレを見て、そんなになってる? と聞いてくる。けど、すぐ自分の肩が強張ってることに気づいたみたいで。  一回手を離して、肩を回してる。  ひょい、とオレの手元を覗いて。 「宮瀬、やっぱり上手だね」 「これはまあ……慣れてるので。でも先輩も上手ですよ」   「んー。宮瀬は、もうここまでいくと、職人さんの域だよね」  感心したように言う先輩に、ふ、と笑ってしまう。 「そう言われたら、小学生からなので……もう十年くらいですね。あ、先輩のカメラも結構長いですよね」 「オレは中学からだし……二年くらい離れてたから」 「真剣な感じは、プロみたいに見えます」 「……ふふ。そう?」  楽しそうににっこり笑うと、肩を回し終えた先輩は、また針とぬいを持ち直した。  

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