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第38話 普通の朝食なんだけど

「あっ火入れすぎた」 「全然大丈夫です」 「ま、いっか」  朝ごはんの支度中。  卵を焼いてた先輩は、オレにバターを渡したりしてる間に少しフライパンから離れたら、ちょっと失敗したらしい。  ――何これ。楽しい。  たかが朝ごはんの支度。  ……毎朝、一人で普通にしてることが、先輩と一緒だと、どうしてこんなに楽しいのか。  パンと卵とウインナーとコーヒー。ごく普通なのに。 「ヨーグルト食べる? ブルーベリー入れて」 「あ、はい……ブルーベリーですか?」 「うん。冷凍ブルーベリー。体にいいって聞いて……何に良かったかは忘れちゃった」  ……何それ。超可愛い。  あー。  和む……。  まだ早朝なので、なんだか肌に触れる空気が凛としてる感覚。少し眠い気もするけど、それすら、なんだか心地よい気がする。 「いただきます」  二人で手を合わせて、食べ始める。  卵が少し焼きすぎちゃったのも可愛いし。  ヨーグルトの白に沈んでるブルーベリーとか。さっきの可愛い感じを思い出して、また可愛く見えるし。 「宮瀬、テレビつける人?」 「先輩は?」 「普段ご飯の時はつけないけど……宮瀬がつけたいならいいよ。ニュースとか?」 「いいです。オレもつけないので」 「ん」  にこ、と笑って、食べ続ける。  静か。  ……ほんと。……好きだな。 「あ。後でパソコンで見せるけど。好きな写真撮れたかも」 「楽しみですね」 「ふふ。宮瀬の手、綺麗だよな。なんかすごく綺麗に撮れたよ」 「そうですか?」  ふと自分の手を見てみるけど。普通かなと思いながら。 「先輩、後で作ってるとこ撮りたいって言ってましたけど」 「うん」 「先輩のぬい、作ってていいですか?」 「うん! いーよ」 「服とか決まりました?」  そう聞くと、先輩は、「あ、そっか」と少しの間考えていたのだけれど。 「宮瀬に任せてもいい?」 「あ、はい。実はオレ、あれがいいなと思ってるものがあるので」 「え、そうなの? なんだろ」 「出来上がってからのお楽しみで」 「――はは。分かった」  楽しそうに笑って頷く。 「あ、ブルーベリー、おいしいですね」 「うん。でしょ。最初は健康とか言ってたんだけど……おいしいから食べてる」 「ほんと、おいしいです」  楽しそうに笑う先輩に、オレも笑ってしまう。  ――オレ、先輩と話すのは、最初から楽だったけど。  なんか、気付くと、より普通に話せてる気がする。まあ先輩には、ドキドキしたりはしちゃうのだけれど。言いたいことを話せる感覚は、結愛とのそれに近いかも、と思ったりもする。  そういえば、昨日の家庭科室で説明してた時も、高校の時のオレよりも、大分ちゃんと話せたような。  まだ三か月くらいしか経ってないのに、不思議。  人は見た目から入るっていう結愛の言葉は、ほんとそうかも。  人からの見る目が違うって言うのももちろんあるけど、自分が、ちゃんと見た目に気を使って、ちゃんとまっすぐ立とうとしてるのって、多分、いろいろ変化があるのだと、最近少し思う。  多分オレ、高校の時と身長はそう変わってないかもだけど、姿勢を伸ばしてまっすぐ立ってるだけで、背が伸びたみたいな気もしてるしな。 「宮瀬、あのさ」 「はい?」 「昨日話したことなんだけど……」 「あ、はい」  先輩は食べる手をいったんとめて、オレをじっと見つめてくる。オレも手を止めて、先輩を見つめた。 「なんか……宮瀬に話したら、オレ、すっごく楽になった。昨日もそう思ったけど、今朝になって、なんかずっと、楽なんだよね。……隼の気持ち、考えてるようで考えてなかったし。彼女のこともだし。……なんか、オレ、大したことない、よくある普通のことだって、無理して思おうとしてたような気がしてたみたい」 「はい」 「なのに、なんか……オレなんか、みたいな気持ちがずっと残ってて……」  先輩は少し、考えてから。 「なんかもう高校がやなとこみたいに思ってたんだけど――楽しいこともいっぱいあったなって」 「はい」 「宮瀬に過去の認識改めろとか言ってたけど……オレが改めた」 「……うん。よかったです」  ふ、と笑ってしまう。  えへへ、とか笑ってる照れたみたいな顔が、可愛くて。   「隼ともし、イベントで会っちゃったとしてもまだ何話していいか分かんないし……そこはすぐはどうにもなんないかもだけど……」  黙って頷いたオレに、先輩はにっこり笑った。 「いっぱい話してくれて、ありがと。宮瀬」 「――はい」 「あ、ごめん。食べよ食べよ。急に言いたくなっちゃって」 「いいです、全然。良かったです」 「……うん。良かった」  ふふ、と笑う先輩が。  オレも、ほんとに、嬉しかった。  

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