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#One

 《chapter Ⅰ》  ――うろこ雲が幾重にも繋がり、果てしない青の空に浮かび上がっている。  広大なハミルトン城の庭園に色づいている、『いろは楓』にホースの柄を伸ばし、千種 紅緒(ちぐさ べにお)は空を見上げながらほうっとため息をついた。  今日も空が高い。  手を伸ばしても届かない空はまるで紅緒が三十年間引き摺っている恋心と同じようだ……。  それでも紅緒は今日も、片想いをしている彼のために健気にも仕事を全うする。  紅緒の仕事は、父の代から引き継がれている庭師だ。  家族は三人。  紅緒の父親は日本人で、外国の庭について勉学のため、このイギリスにやって来た。そしてイギリス人の母親と恋に落ち、紅緒が生まれた。  おかげで紅緒の父親はちょっとした勉学のためにイギリスに在住していたのだが、こちらに国籍を移し、今ではすっかりイギリス人だ。

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