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番外編 9章 白紙の離婚届
病院で検査を受けてから三日。
柚希はテーブルの上に置いた二枚の紙を呆然と見つめていた。一枚はまるで死刑宣告のような検査の結果用紙。もう一枚は白紙の離婚届。
あの検査を受けた日の帰り道、柚希の足は自宅ではなく、役所に向かっていた。少し自暴自棄になっていたというのもあるかもしれない。気が付けば離婚届を手にしていた。
この二枚の紙を持って帰ったら蓮は一体何と言うのだろうか……そう思いながら帰宅したのだが、蓮の姿は家になかった。
しばらく確認していなかったスマホを開くと彼からメッセージが入っており、県外での急ぎの対応で数日そちらに行かなければいけなくなったと。
その日から、この二枚はテーブルの上に放置されたままだ。しかし、それも今日で終わり。あと少しで蓮が帰ってくる。
誕生日のときにもらった柚希のイニシャルが刻印された万年筆を握りしめ、白紙の離婚届にそのペン先を下ろそうとしたのだが。
「……っ…」
書けない。
この数日で何度も書こうとした。だけど、手が震え、視界が霞み、どうしても書くことができずにいた。
濡れた跡が残る紙にまた一つぽたりと雫が落ち、紙を湿らせていく。柚希は力なさげにその上へと突っ伏し、瞳に浮かんできてしまったものを自身の腕で覆い隠した。
カチカチと秒針が時を刻む音がやけに大きく聞こえ、その音はまるで蓮との別れを告げるカウントダウンのようにも思えてくる。
いっそのこと時が止まってしまえば良いのに。
そんなありもしないことを願ってしまうが、その秒針は止まることなく、確実に時を刻んでいく。そして、とうとう玄関のほうからガチャッと終わりを告げる扉の音が鳴ってしまった。
「……」
伏せていた顔をゆっくりと上げ、一度大きく息を吐き出す。
蓮が廊下を歩いてくる音を聞きながら膝の上で両手をぎゅっと握りしめ、もう一度テーブルの上の二枚の紙を見つめた。
結局、一文字も書くことはできなかった。この空白のままの離婚届と検査結果を見た蓮はすぐに納得してくれるだろうか。妊娠できないなら離婚するしかないと。それとも……。
「柚希、ただいま…ってお前その顔どうしたんだよ」
「……」
この三日間でたくさん泣いた。それに、ついさっきも。きっとひどい顔をしてしまっているだろう。泣かないようにしよう、そう思っているのに彼の顔を見たら目に熱いものが込み上げてきてしまう。
涙の膜が瞳に張っていく中、蓮の視線がテーブルの上へと向いたのが見えた。そこにあるのはあの二枚の紙。検査結果についてはぱっと見ではきっとわからない。しかし、離婚届に関しては一目でそれの意味するものがわかるはずだ。
「柚希、これは?」
「……ごめ、ん…蓮…」
「理由は?」
「……妊娠の確率、0.1%って…できなかったの…僕が、悪かったっ……お義父さんから言われたこと…守れ、ない…」
絶対に子どもを作れ。その言葉の重みは東条家の一人息子である蓮ならどれほどのものか十分わかっているはずだ。
東条家の後継者を作るという条件で認められた結婚。本来釣り合うはずのない柚希が唯一蓮と一緒にいられる道だった。しかし、この身体はその唯一の道すら断ち切ってしまった。
蓮が東条家の人間である以上、後継者を作ることができず、他に何の価値もない柚希と一緒にいることは認めてもらえない。
静かな空間にカチカチと時計の針の音だけが響き渡る。
蓮はテーブルの上に置かれていた検査結果を手に取った。そして、柚希が言った0.1という数値が書かれている項目に目が止まる。
その数値の周りにはぽつぽつと濡れた跡が残っていた。この数日、柚希が何度この紙を見て、何度一人で涙を流したのだろうか。
蓮は数秒間そこを見つめてから一度瞼を閉じ、深く息を吐き出してから頷いた。
「……わかった」
「……」
「柚希がその理由で離婚するって言うなら俺は実家と縁を切る」
「……え?」
聞き間違えではないのかと思えるような蓮の発言に、瞬きすらも忘れてその場に固まってしまう。
そんな柚希の姿に軽く笑みを浮かべた蓮は、ここ数日で少しやつれた柚希の頬をそっと撫でた。
「子どもができなくたっていい。俺は柚希と離れたくないんだよ。お前が俺のことを嫌いにならない限り離婚なんて絶対にしないし、誰にもさせない。それとも、柚希は俺のこと嫌いになった?」
その問いに彼の瞳を見つめたままふるふると小さく首を横に振る。瞳に溜まった涙がツーっと流れ落ち、それを彼の指先が優しく受け止めた。
「……嫌いなわけないっ…すき、だよっ…だれよりも、好き…けどっ…だめ、だよ…」
蓮の真っ直ぐな言葉、気持ち、それはしっかりと伝わってくる。実家と縁を切る、そう迷いなく言ってくれたのも正直嬉しかった。だけど、蓮の家族を壊すのは柚希の本望ではない。
「柚希、俺の目、見て」
「んっ…」
切れ長の彼の目。柚希のことを優しく見つめてくれる大好きな黒い瞳。その瞳にはしっかりと柚希の姿が映り込んでいる。
「人工授精でも体外受精でも何でもやれることは一緒に全部やろう。これはお前一人の問題じゃないんだから。俺たち家族だろ?それで、もし何やってもダメなら最終手段として俺は東条の家を捨てる覚悟はできてる。お前となら何処へだっていけるさ。今はとにかく検査の結果が悪かったからって柚希は一人で抱え込もうとしないこと。良い?」
「……ん」
「じゃあ、質問な?正直に答えて。俺の実家、怖い?」
「……ちょっと」
「うん。病院行ったのはいつ?それからご飯は食べてた?」
「……病院は、蓮が出張に行った日…ご飯は…あんまり…」
「ちゃんと寝れてた?」
「……ううん」
「そっか。ゆず、おいで」
「えっ…わっ!?」
何の前触れもなく蓮に抱き上げられ、柚希は慌てて彼の腰に足を回して抱きついた。彼の首筋に鼻が近づき、落ち着く匂いが柚希のことを包み込む。
その香りはこの数日間の不安だった気持ちを和らげ、全て彼に委ねても大丈夫だと思わせてくる。そして、耳のすぐ近くで彼の低い声が囁いた。
「一人で怖かったよな。ごめんな、傍にいられなくて」
「……蓮が謝ることじゃないよ…僕の方こそごめん…蓮は検査しなくて良いって言ってくれたのに…」
「まぁ、正直、お前が検査行きそうだなっていうのなんとなく思ってたよ」
「えっ…」
「何年一緒にいると思ってるんだよ。お前の考えてることは大体わかるって。気にするなって言っても気にするのがお前だもんな。けど、これだけは忘れるなよ。何があっても俺は一生お前から離れないし、守り続ける。だから、子どもができないから離婚するなんて言わないでくれ。俺が強い男でいられるのはお前がいてくれるからなんだよ、柚希」
俺が強い男でいられるのはお前がいてくれるから。
その言葉に耳だけでなく首までもがじわじわと熱く、赤くなっていく。
蓮は一人でなんだってこなせる人間だ。仕事だって生活面だって、何をとっても完璧だといえる。そんな彼が、柚希が離れることに対してここまで必死になっているのだ。
柚希は蓮の肩口に顔を埋めたままぽつりと呟いた。
「……蓮って…本当に僕のこと好きなんだね…」
「好きって言葉じゃ足りないくらいにはな」
「……ふふっ…ばか蓮」
「良いよ、俺はゆずバカだから。お前が笑って傍にいてくれればそれで良い」
肩に埋めていた顔を上げ、蓮と視線を絡める。潤んだ視界の中に映る彼の顔には優しげな笑みが浮かんでおり、柚希はその薄い唇に自らの唇を重ね合わせた。
ちゅっと触れるだけの口付けをして両手で蓮の両頬を包み込む。
「蓮、ごめんね……諦めることしか考えられなくなってた…けど、やっぱり諦めたくない。もう離れるなんて言わないよ」
「うん、それが聞けて安心した」
「あと、ね…」
「ん?」
視線を一度下へと落とし、ごくりと唾を飲み込む。そして、頬を赤らめながら再び彼の目をしっかりと見た。
「…今日は…蓮が、ほしいな…」
「…ふっ、柚希からのお誘いを断るわけにはいかないな。けど、その前に飯、な?」
「えっ」
柚希からの誘いなんて滅多にないためそのままベッドに直行コースかと思ったが、まさかの蓮の発言に少々面食らってしまう。しかし、よくよく考えてみれば蓮は出張から帰ってきたばかりだ。それでご飯も食べずに性行為、なんてわけにはいかないだろう。
柚希は心の中で自己完結してこくりと頷いたのだが、ニヤリと口角を上げた蓮が柚希の耳元へ唇を寄せた。
「今日は朝まで離してやれないかもしれないから、体力つけとかないとな」
「っ…!?」
「期待した?」
「ち、ちがっ」
「ははっ、まぁ朝までは冗談だけど、飯は先に食べような。お前これ以上痩せたら倒れちまいそうだし。今日は俺が美味しいもの作ってやるから、たくさん食べて痩せた分取り戻すんだぞ?」
「……うん、ありがと、蓮」
再び軽く口付けをし、柚希は微笑みを浮かべた。
◆
「んっ、ぁ…れ、んっ…も、いいっ…あっ…」
寝室にはぐちゅっぐちゅっと淫猥な水音が響き、そこに柚希の控えめな喘ぎ声が混じっていた。ひくひくと震える身体はすでに蓮の長い指を三本咥えこんでおり、いつもは色白の肌も今はほんのり赤く染まってしっとりと汗を浮かべている。
「んっ…ひ、ぁっ!」
柔らかくなった内壁を擦られながら胸の突起にカリッと歯を立てられ、ビクリと身体が跳ね上がる。きゅーっと乳首を唇で引っ張られ、歯で甘噛みされ、ジンジンとした痛みと快感の狭間に愛液もカウパー液も止まらなくなっていた。
「ふ、っ、ぁっ、れ、んっ…れんっ…」
「ん?」
乳首を舐めたまま上目遣いで見上げられ、カーッと顔が熱くなってしまう。羞恥で顔を背けたくなる気持ちを必死で抑え、柚希は消え入りそうな小さな声で呟いた。
「…今日……上…乗っても、良い…?」
「騎乗位?」
直接的な体位の名称に頭が沸騰しそうなほどに熱くなる。彼と目を合わせていることができなくなり、ぎゅっと目を瞑りながら必死に首をこくこくと動かした。
いつもは蓮に全てを任せっきりにしてしまっているからたまには…と思ったが、やはり恥ずかしすぎる。撤回していつも通りにしたほうが良いかも…。そう思った次の瞬間、ベッドに沈んでいた身体が抱き起こされ、あっという間に蓮に跨る形にされてしまった。
「柚希、嬉しいよ。頑張れる?」
「う、ん…っ…」
ごくっと唾を飲み込み、視線を下へと向ける。そこにあるのはすでに十分に勃起したアルファの陰茎。
付き合ったばかりの頃はあまりの大きさに恐怖を感じ、まともに見ることができなかった。さすがに何年も一緒にいるうちに慣れたものの、今でも勃起した時のサイズには少し尻込みしてしまうことがある。
「腰、持っててやるから。ゆっくり下ろしてみな」
「んっ…」
彼の熱く脈打つ陰茎の先端に蕾を押し当て、軽く腰を落とすとそこからはくちゅっと濡れた音が零れた。張りあがった亀頭がきゅうっと締まる蕾を押し開いていき、彼の指によって解された内壁を擦り上げていく。
「ぁ、っ…んっ…」
「気持ちいい?こっちもすごいことになってる」
「ゃ、あっ…言わなっ、でっ…」
身体の奥深くから溢れる愛液の量もすごかったが、陰茎からとぷとぷと溢れる透明な液体も止まらなくなってしまっていた。それは柚希の陰茎を伝い、蓮の身体にまで落ちている。
「ほら、止まってるよ。前触ろうか?」
腰に触れていた蓮の手が柚希の浮き上がった腰骨をなぞり、震える陰茎に手を滑らせそうな気配を感じ、柚希は首を横に振った。
「だ、めっ…」
今そこを触られたら確実にイってしまうし、きっと力のコントロールを失って一気に奥まで蓮のことを飲み込んでしまう。
息を乱しながらも腰をゆっくりと下へ落としていき、あともう少しというところで柚希は再び動きを止めた。
「は、っ…んっ…は、ぁっ…んぅっ…」
ひくひくと身体が細かく震え、唇の隙間から熱い吐息が零れ落ちる。
柚希が動きを止めた場所、その先にあるのは一番敏感な生殖腔だ。
どくどくと脈打つ蓮の陰茎がその入口にぴたりと当たり、侵入を望むかのように小さくとちゅっ、とちゅっと突いてくる。
「ゆず、あとちょっとだよ」
「んっ…わかって、る…けど…」
「手伝う?」
「い、いいっ…ひっ、ぁっ!」
蓮の手にぎゅっと力が入り、腰が僅かに下げられてしまう。
ぐーっと敏感な入口が押し広げられていく感覚に目の前がチカチカと明滅し、反射的に腰を浮かそうとする。だが、彼の手はそれを許してくれなかった。
「や、ゃぁっ、れんっ、それっ、だめっ」
「そう?いつもより気持ち良さそうじゃない?」
ふるふると首を横に振って否定するが、いつもより快感を得ているのは間違いなかった。
陰茎の脈動を感じられるほどにゆっくりと生殖腔を広げられ、彼の輪郭を覚え込まされてるかのようにすら思えてくる。
瞳にじわりと生理的な涙が浮かび上がり、霞んだ視界の中で蓮のほうを見ると、彼の手が柚希の腰から離れた。その手は柚希の両手を掴み、手のひら同士が重ね合わされる。
「じゃあ、俺は何もしないから、ゆずのペースでやってみて?」
「……ん、ぁっ…ぅ、んっ…」
ゆっくりは嫌だと言いながらも柚希自身で一気に奥まで飲み込むことなんてできるわけがなかった。
途中で何度もイきそうになるのを蓮の手を握りしめながら耐えていたが、時間をかければかけるほどじわじわと全身の感度が高められていく気がする。そして、最奥に触れた瞬間、それは頂点に達してしまった。
「ッーー!」
頭のてっぺんから足の先まで電気が流されたかのような快感に頭の中が真っ白になる。びくびくっと身体が震え、長い絶頂に最奥まで埋まった陰茎をぎゅうぎゅうと締め付けた。
「ゃ、あっ…ぁ、あっ」
柚希の淡い色をした陰茎は亀頭を赤く充血させ、先端の小さな孔をぱくぱくと収縮させている。しかし、そこから白濁の液体は出ていなかった。
射精を伴わない絶頂により、涙が勝手に溢れだし、呼吸が上手くできずに口をはくはくと開閉させる。その時、敏感になった身体の奥底で蓮の陰茎がビクビクッと震えるのを感じた。
「くっ…」
蓮の堪えるような声が漏れた瞬間、びゅくびゅくっと熱いものが奥深くに叩きつけられた。それは生殖腔の中を満たしていき、オメガの本能が搾り取るようにきゅうっと締め付けていく。
「んぁ、あっ、れんのっ…あつ、ぃ…いっぱい…」
「はっ、ははっ…まさかこんな早くイかされるなんてな…けど、もう少し、良いか?」
「んっ…も、すこし…?」
絶頂直後のふわふわとした頭では蓮の言葉の意味をしっかりと理解できていなかったが、頭は勝手にこくりと頷いてしまっていた。
両手を握られたまま下からとちゅっとちゅっと軽めに突き上げられ、その突き上げに合わせて控えめな喘ぎ声が零れ落ちていく。
「ゆず、ここ、気持ち良い?」
「ん…きもちぃ…っ…ぁ…んっ…」
「激しいのとゆっくり、どっちが好き?」
「んぁっ…どっちも…すき…っ…れんと、やるの…んっ…すき…」
その言葉に、もう十分大きいと思っていた彼の陰茎がまた少し大きくなったような気がした。
快感に溺れる中で彼の顔を見ると、その額には薄っすらと汗が浮かび上がり、激しく突き上げたい衝動を必死に堪えているようにも見える。
「お前、本当、ずるいよ。えろすぎ」
「そんなこと、なっ…ぁっ…んぅっ」
ぐいっと両手を引っ張られ、彼の唇によって言葉は塞がれてしまった。
熱い舌が絡む間も下からの突き上げは止まず、角度が変わったことに多少の苦しさはあったものの、彼に抱きしめられ、埋め尽くされているという満足感のほうが大きかった。
気が付けば蓮の動きに合わせるようにして柚希も腰を動かしており、奥深くを突かれる度に脳に甘い痺れが走り抜けていった。
「れ、んっ…ひ、ぅっ…す、きっ…れんっ…」
「あぁっ、俺もっ、好きだ…っ…柚希ッ…また、出すぞっ…」
「んっ、ぁっ…!」
ぐちゅんっと最奥を強く突かれた瞬間、ぱちぱちと白い光が瞬き、再び中に大量の熱い精液が放たれた。
どくどくと注がれていくそれは生殖腔を満たし、お腹の中を熱くしていく。アルファ特有の亀頭球によってぴたりと塞がれた後孔は一滴も零さないとでもしているようで、それは少し苦しくありながらも嬉しくもあった。
「んっ…れん…んぅっ…」
彼の熱を感じながら大好きな彼の香りを胸いっぱいに吸い込む。その瞬間、ドクンッと心臓が大きく脈打った。元々熱かった身体が更に熱を上げ、身体の奥底から抑えきれない欲望が湧き上がってくる。
「っ…ん、ぁっ!?」
ぶわっとスズランの香りが一面に広がり、二人のことを包み込んでいく。
柚希のフェロモンがこんなにも一気に溢れるなんて、考えられるのは一つ。発情期だ。蓮の香りを嗅ぎ、彼に満たされながらも発情期に入ってしまったのだ。
「ゆず、このタイミングで発情期って…もっと欲しいってことか?」
「う、ぁっ…」
発情期の熱と恥ずかしさで顔が真っ赤になりながらも柚希の身体は蓮のことを求めていた。その証拠に先程よりも生殖腔が下に降りてきているような感じがあり、蓮の陰茎にきゅうきゅうと絡みついてそこから出ている精液を余すことなく吸い尽くそうとしているのだ。
「フッ、お望み通りたくさんあげるよ。今日、俺の方も長そうだし」
「ぇっ…あっ、んぅっ」
蓮に噛み付くような口付けをされ、二人の結合がぐちゅっと更に深まる。その間も蓮の射精は止まっておらず、彼が今日は長いかもと言ったのはどうやら本当のことのようだった。
もしかしたら出張でしばらく番である柚希と離れ離れになっていたことと、柚希の妊娠する可能性がほぼないことを話したことでアルファの本能を刺激してしまったのかもしれない。
それに引きずられるようにして柚希の本能もますます疼いていった。
もっと蓮が欲しい。精液だけじゃなくて、蓮の全部が。
「れ、んっ、ぁっ、んッ…もっと、ほしいっ…」
「俺の、何が欲しい?」
「んぁっ…噛んでっ…蓮のぜんぶっ、ちょうだいっ」
獣の光を宿した瞳と視線が絡んだ次の瞬間、顔をぐっと傾けられ、首筋に鋭い痛みと爆発的な快感が走り抜けた。
「あぁっ!」
蓮のフェロモンが柚希のことを覆い尽くし、全身が痺れるような快感に包まれる。そして首筋から流し込まれたフェロモンに呼応するように、うなじに付けられた番の印がずくんっと疼いた。
生涯消えることのない蓮からの印。そこがじわじわと熱を帯び、身体も思考も全て蓮に絡め取られていく。
「柚希、一生、絶対離さないからな」
「ぅ…ぁ…んっ…」
こくこくと頷き、力の入らなくなった手で彼のことをぎゅっと抱き締めた。
蓮の身体から漂うフェロモンも濃さを増し、それは二人の理性を忘れさせ、本能を剥き出しにさせていく。
二人はただお互いを求めあった。時間も忘れて繋がり続け、飽きることなく愛を囁きあう。
フェロモンが混じりあった室内が熱を冷ましてくれることはなく、気がつけば空が白むまで二人は何度も誓いを重ねていた。
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