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小話② 巣作り【晴斗×陽汰】
陽汰と晴斗が付き合い始めて一か月ちょっとが経った桜舞い散る4月。
大学の入学式、晴斗の誕生日、サークルの新歓など、慌ただしい日々が続き、ようやく落ち着いたかと思ったら晴斗は実家から呼び出しを受けた。
「はぁ…親戚で集まって進学と誕生日祝いするから一泊でもいいから帰って来いだって。行かなきゃダメかなぁ」
「お前のお祝いなんだから、主役不在はダメだろ」
「そうだけどさ、お祝いって言ってみんな騒ぎたいだけなんだよ。そうだ、陽汰も一緒に行く?」
おかずを掴もうとしていた陽汰の箸の先がぴくっと小さく跳ねる。
晴斗の両親とは陽汰も仲が良い。それだけでなく、彼の親戚にも昔からよく可愛がってもらっていた。
少し前までなら何も気にすることなく晴斗と一緒にお祝いの場に参加していたかもしれない。しかし、今の二人は恋人同士。しかもまだ付き合って一か月だ。どうしても気恥ずかしさが出てしまう。
「……行かない」
「あ、もしかして恥ずかしい?耳赤くなってる」
「う、うるさい!試験勉強するから行かないだけだ!」
もちろんそんなのは嘘だ。4月になったばかりで重大な試験などあるわけがない。
顔まで赤くなっていくのを誤魔化すように陽汰はごくごくとビールを一気に流し込んだ。
「はいはい、じゃあ俺一人で行ってくるよ。試験勉強頑張ってね」
ニヤニヤと笑う晴斗を机の下で小突き、ふんっと横を向く。その頬も耳も誤魔化せないほどに熱く、赤くなっていた。
それから数日後、晴斗は一人で実家へと向かった。たった一日だけだと言いながらも彼は家を出る直前まで陽汰と離れるのを渋っており、最終的には陽汰が押し出す形で玄関からその高身長の身体を無理やり見送った。
一人きりになったリビングのソファに腰掛け、広い部屋をぼんやりと眺める。
晴斗が留守の間に家中の掃除をして、衣替えもして、試験はないけど勉強もして……そんなことを考えていると大きなあくびが零れ落ちた。
「ふぁ……ねむ……」
そういえば昨夜は晴斗に求められるままに身体を繋げ、一回だけのつもりがつい盛り上がってしまった。眠りについたのも気づけば空が白み始める頃だったように思う。
眠気に抗ってこくこくと頭を揺らし、クッションを抱いたりスマホを開いたりして耐えようとしたが、結局その眠気に勝つことはできなかった。
ずるずると重力に任せてソファに崩れ落ち、鉛のように重くなった瞼が閉じていく。途切れそうになる意識の中で掛けるものを求めて手を動かすと指先に柔らかな布が触れた。落ち着く森林の香りが鼻腔をくすぐり、自然と微笑みが浮かび上がる。
猫のように丸まりながら彼の匂いを胸いっぱいに吸い込み、暖かな午後の日差しの中、陽汰は眠りへと落ちていった。
「ん……っ……」
甘い金木犀の香り、異常な熱を持った首の後ろ。ぼんやりとした意識の中でまず感じたのはその二つだった。
眠る前は晴斗の香りに包まれていたはずが、今は金木犀の香りに上書きされてしまっている。
「っ……!」
パッと瞼を開け、信じられない状況に瞳が震える。心臓はバクバクと煩く、背中はびっしょりと汗をかいていた。
発情期――。
どうして。つい最近きたばかりなのに。
周期が狂っていることに思考が一時停止し、その場に固まってしまう。しかし、こうしている間にも抗いきれない熱は理性を食い潰そうとしていた。
「薬……!」
晴斗の服を握りしめたまま陽汰はふらつきながらもなんとか立ち上がった。引き出しを開け、注射器型の抑制剤を腕にぷすっと突き刺す。
「痛ッ」
ちくっとした痛みと薬が身体に入っていく感覚にそっと瞼を閉じ、はーはーと呼吸を繰り返しながら抑制剤が効いてくるのを待つ。だが、しばらく経ってもその効果は全くといっていいほど現れてこない。それどころか先ほどよりも熱は増しており、陽汰は耐え切れずに手に持っていた晴斗の服を顔に押し付けた。
晴斗の森林を思わせる落ち着く香りは発情期に侵された身体の欲求を埋めてくれる。しかし、それと同時に更なる欲求をも抱かせた。
もっと、欲しい。晴斗の匂いがもっと。
「はると…っ……」
こんなことダメだ。ダメなのに……。
ふらつく足は晴斗の部屋へと向かい、彼の服が入っているクローゼットを開けてしまった。ハンガーにかけられた彼の匂いがついた服を一枚一枚取り外し、今朝まで晴斗が使っていたベッドへと積み重ねていく。
「もっと…っ…はると……」
陽汰が本能的にやってしまっている行動はオメガの巣作りだった。
好きなアルファの匂いがついたものを集め、自分の巣を作る行為。
彼の匂いが濃くなっていけばきっと満たされる、そのはずだった。
「……なんで……」
ぽつりと呟いた言葉。それと共に赤くなった頬に透明な雫がツーっと流れ落ちていく。
一度溢れ出した涙は次から次へととめどなく溢れ、服にぽつぽつとその跡を残した。
「ひっ…ぅ…なん、でっ……うまく、できなっ……」
初めての巣作り。どんなに整えても、どんなに服を増やしても何かが足りない。どうしても上手くできない。
集めた服の真ん中に寝転がり、頭から晴斗の服をかぶってみるが、それでもやっぱり満たされない。
彼の服をぎゅうっと抱きしめながら身体を丸め、この空虚感と燻る熱を少しでも和らげようとする。すると突然、ズボンのポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らした。
視界は涙で霞み、目を細めながら画面を確認すると、そこには今まさに求めていた人物の名前が表示されていた。
「……」
こんな状態で出たら、声だけでも怪しまれてしまうかもしれない。だけど、少しでもいい。晴斗の声が聞きたかった。
ごくっと唾を飲み込み、震える指先で慎重に通話ボタンを押す。
「……も、しもし」
「あ、もしかして寝てた?」
「ううん……起きてた……」
「……陽汰、何かあった?」
ぎゅっとスマホを握る手に力が入る。
やっぱり怪しまれてしまった。どうにか誤魔化して、早く、切らないと。
そう思う気持ちとは裏腹に別の気持ちも大きくなっていく。
晴斗に会いたい。
声を聞いたら満足するかと思ったのに。満足するどころか恋しい気持ちが増してしまった。だけど、晴斗は久しぶりに実家に帰って家族に会ってるんだ。ここでわがままを言うわけにはいかない。
「何もないよ」
声が震えないように、いつも通りに言えたはず。
あとはこのまま電話を切るだけ。
「ねぇ、陽汰、画面見て」
「え?」
耳に当てていたスマホを離して画面を見るとそこにはビデオ通話へと切り替えるボタンが表示されていた。
こんな状態でビデオ通話なんかできるわけがない。普通なら。
しかし、長年の癖とは恐ろしいものだった。田舎にいた頃からよくお互いに見ているものを共有し合ったり、晴斗がビデオ通話をかけてくる頻度も高かったため、反射的にそれを押してしまっていた。
「……」
「泣いてた?」
「……ん」
気まずげに視線を落とすが、画面には陽汰の赤くなった目尻や頭の上に乱雑に乗った晴斗の服がばっちりと映ってしまっている。
こんなの言い逃れようがない。
「どうしたのか教えて?」
「……発情期……薬効かなくて……晴斗の部屋でっ……服集めたけど……うまく、できなくて……」
必死に言葉を紡ぐが、その間も身体は疼き、涙がぽろぽろと溢れ出てきてしまう。膝を擦り合わせるとくちゅっと濡れた音が下半身から響いた。
「……今から帰るよ」
「だめっ……!せっかくの家族の時間、俺のせいでダメにしないで……俺は一人で平気だから」
その言葉は本心だった。自分の発情期なんかのために晴斗と家族の時間を潰してしまうなんて、そんなの許せない。
大丈夫、これくらい耐えられる。
自分を鼓舞するように心の中で呟くが、晴斗の服を握り締める手は震えており、強く握りしめるあまり細い指の関節は白くなってしまっている。
その姿は画面越しの晴斗にも見えていた。彼の切れ長の目が一瞬スッと細められ、少しの間のあと、僅かに低くなった声が誘うように告げた。
「……じゃあ、電話で手伝わせて」
「え……?」
「テレフォンセックス。知ってる?」
「てっ……!?」
カッと顔が一気に熱くなる。存在自体は知っているが、そんなマニアックなプレイ、自分とは一生無縁だと思っていた。
声を出すことができずに顔を真っ赤にしながら口をぱくぱく動かしていると晴斗はくすっと笑い、ベッドへ腰掛けた。
「今のままじゃ身体熱くてたまらないでしょ?だから、俺の言う通りに動いてみて」
「うっ……」
晴斗のアルファとしての本能を刺激してしまったのか。それともドSスイッチを押してしまったのか。どちらかはわからなかったが、こうなってしまったら彼を止めることも逆らうこともできない。それに、陽汰の身体も我慢の限界だった。
「スマホ、枕のとこに立てかけて。服脱いで」
彼の言葉にごくっと唾を飲み込む。恥ずかしいという気持ちはまだ少し残っていたが、陽汰は晴斗に言われた通りにスマホを枕元に立てかけた。
Tシャツを脱ぐとしっとりと汗をかいた白い肌には所々に昨夜の行為の跡が残り、薄紅に色付く胸の突起がピンッと立ち上がって存在を主張している。
「胸、触ってみて。先端にはまだ触らないで、周りだけね」
「う、ん…っ、ぁ……」
仰向けになって両手の指先で乳首の周りをゆっくりとなぞっていく。
薄く瞼を閉じ、じわじわと快感を引き出されていく感覚に陽汰の呼吸は徐々に乱れ、気付けば腰もかくかくと動いてしまっていた。
「声、我慢しなくていいからね。次、陽汰の好きなように摘まんだりしてみて」
「ンッ、ぁっ……!」
くりゅっと先端を指先で少し強めに摘まむと痺れるような快感が駆け抜け、咄嗟に指を離してしまった。ジンジンと痺れながらも、いつも晴斗に弄られているその場所は、少し強めの刺激を得たことで物足りなさを訴えてくる。
恐る恐る再び指をツンっと立った場所に這わせ、痛いくらいにきゅーっと引っ張り、爪先でカリカリと先端を引っ掻いていく。
次第に大胆になっていく動きに乳首への刺激だけで果ててしまいそうになったが、低い声がそれを止めた。
「陽汰、こっち見て」
「ふっ、ぁっ……!」
画面越しに熱い瞳と視線が絡み合う。その獣のような瞳に、今の痴態を全て見られていたことを思い出した。
陽汰が戸惑うように視線を揺らすと晴斗は軽く笑みを浮かべた。
「ズボンも脱いで。その中がどうなってるか俺に教えて」
「ッ……!」
肩がひくりと震え、ズボンの中からぐちゅっと濡れた音が零れる。その中はすでに陰茎から溢れ出る先走りの液体と、後孔からの愛液でびしょびしょだ。
「ぁっ……」
「ほら、気持ちよくなりたいでしょ?」
「う、ん……」
陽汰は横向きになって震える手でズボンとボクサーパンツを一纏めに掴んだ。ゆっくり下ろしていくと肌と布の間に透明な液体がツーっと伸び、太腿やシーツにも零れ落ちていく。
淡い色の陰茎はふるふると震え、少しでも触ったら達してしまいそうなほどに勃ち上がっていた。
スマホの位置と陽汰の姿勢によって下半身は影になり、晴斗の視界には映っていない。しかし、陽汰の身体の震えや手の動きはしっかりと確認することができ、晴斗は無意識にごくりと喉を鳴らした。
「陽汰、どうなってるか、教えて」
「ん、ぁ……ぬ、れてる……」
「それだけじゃよくわからないよ。いつも俺がやるみたいに握って、陽汰のそこがどうなってるのか詳しく教えて」
彼の言葉に陽汰の涙で潤んだ瞳が大きく見開かれる。
何か言おうと口を小さく動かすがそこからは何の言葉も出てこず、ただ口をぱくぱくと動かすだけになってしまった。
今、触ったらきっとすぐにイってしまう。
視界に映る自身の陰茎はとぷとぷと透明な液体を流し続けており、絶頂へのひと押しを待ち続けている。
ちらりとスマホのほうを見ると晴斗が熱い眼差しで陽汰のことを見つめていた。その視線に促されるように陽汰は手を動かし、どくどくと脈打つ陰茎に指が触れる。そして、指先に少し力を入れて擦り上げた瞬間、待ち望んでいた快感が一気に駆け巡った。
「あ、ぁあっ……はる、とっ、んっ、ぁっ……!」
「陽汰、教えて」
「あ、んっ、あつくてっ……びくびくって……ひ、ぁっ、だめっ……あ、ぁあっ」
空いているほうの手で咄嗟に晴斗の服を掴み、ぎゅっと顔に押し付けた。彼の香りが混乱する思考を更に惑わせ、手の動きに合わせるように腰がかくかくと動き、絶頂へと昇りつめていく。
「ゃ、あぁっ、イ、っちゃっ、はる、とっ、イ、くぅっ」
「いいよ、イって」
「あ、あぁぁっ!」
どくんっと大きく脈打ち、手の中の陰茎がびゅくびゅくと白濁の液体をまき散らしていく。頭が真っ白になるほどの快感にきゅうっと身体が丸まった。
今が発情期でなければこの一回の射精で満足していたかもしれない。だが、発情期の欲望にまみれた身体は更なる快感を求めるように後孔からどぷっと愛液を溢れさせた。
欲するままにきゅうきゅうと収縮する後孔に手を伸ばそうとしたのだが、それは晴斗の声で止められてしまった。
「陽汰、後ろにはまだ触っちゃダメだよ」
「な、んで……は、ぁっ……や、だぁっ……」
「後ろ触りたかったら、陽汰の可愛いところが今どうなってるのか俺に見せて」
じくじくと増していく熱に恥じらいを感じている場合ではなくなっていた。握りしめていた服を離し、スマホの位置を調整して自身の姿が映るようにする。その画面には陽汰の蕩けた表情、ぷっくりと赤くなった乳首、白濁で濡れた陰茎が映し出された。
その煽情的な姿は晴斗を焚きつけるには十分すぎるものだった。電話の向こうからガチャガチャと慌ただしくベルトを外すような音が聞こえてくる。
「はると……?」
「俺も、我慢できないや。陽汰えっちすぎ」
「そんなことなっ」
「えっちだよ。ねぇ、先端の赤くなってるとこ、指先で撫でて」
晴斗が言っているのは赤く充血した亀頭のことだ。果てたばかりで敏感になっているその場所は白濁と透明な液体が混じったもので濡れ、ひくひくと震えている。
今そこを触ったらきっとおかしくなってしまう。そうは思っても画面の向こうの晴斗の視線は陽汰が止まることを許してくれそうにない。
鼓動がばくばくと早まっていくのを感じながら、そっとその濡れた部分に触れる。その瞬間、感度の高められた身体に狂おしいほどの快感が走り抜けた。
「あぁっ!」
「手離しちゃダメだよ。そのまま擦って」
「ゃ、あっ、はるっ、あぁっ、これ、ンッ、だめっ」
くちゅくちゅと濡れた音が響き、陽汰は再び縋るように晴斗の服を握りしめた。弄っているのは自分の手なのに晴斗に指示されたその手は止めることも緩めることもできず、自分自身を追いつめていく。
濡れた瞳で画面を見ると晴斗の瞳も僅かに赤くなっていた。そして、画面には映っていないが、彼の右手もせわしなく動いているように見え、後孔がきゅうっと欲しがるように収縮してしまう。
「はるとっ、あっ、ほしぃっ、はるとがっ」
「くっ……陽汰、今日はあげられないから、指で我慢ね。一本、入れて」
じわっと涙が浮かんでくるが、今は自分の指以外で後ろの疼きを埋めることができないこともわかっていた。唇をきゅっと噛みしめ、小さくこくりと頷く。そして、陰茎に触れていた手を離し、それを濡れそぼった蕾へと触れさせた。
ぬるぬるとした愛液を指に纏わせ、ゆっくりと一本の指を押し入れていく。熱い内壁が指に絡みつき、自分の身体が指の侵入を喜んでいるのが伝わってくる。
「中どうなってる?」
「ん、ぁっ、あつっ、くて…どろどろ……ひ、ぁっ!」
気持ちいい場所に触れ、腰がびくんっと跳ね上がる。咄嗟にその場所から指を離し、はぁはぁと呼吸を整えていると画面の中の晴斗が僅かに口角を上げた。
「陽汰、指もう一本増やして、今の場所とんとんしてみて」
「えっ……で、できなっ」
「できるよ」
有無を言わせぬ言い方にひくっと身体が震え、小さく首を横に振るが、画面の中の晴斗は笑みを浮かべたまま陽汰が動くのを待っている。
うぅっと唸りながら二本目の指もつぷりと濡れた穴の中へと挿入していく。そして、先ほど強い快感を得た場所へと二本の指を添えた。
ここはいつも晴斗によって怖いくらいに気持ちよくさせられてしまう場所。そこを自分で弄ったことはなかったけど、一度やったら快感を追って止められなくなるような気がした。
「陽汰」
「う、ん……ぁ、あぁっ!」
トンっとその場所を叩いた瞬間、電流のような快感が駆け抜け、大きく目を見開く。それは逃げ出したくなるような強すぎる快感でありながら、発情期の欲を満たしてくれるものでもある。
身体の奥深くから大量の愛液が溢れだし、ぐちゅぐちゅと淫猥な音を響かせながら陽汰は指の動きを更に激しくした。
「あ、んっ、ぁあっ、はるっ、あっ、ゃあっ」
「陽汰っ……可愛い、イきそう?びくびくしてるね」
「ひ、ぅっ、イっ、あぁっ!」
晴斗に言われた瞬間、びゅくっと少し薄まった精液を飛ばしてしまった。ガクガクと腰が痙攣し、後孔に埋まる指をきゅうっと締め付ける。二度目の射精で意識が朦朧としかけたが、身体の欲求はまだ収まっていなかった。
足りない。もっと、欲しい。
「ん、ぁっ、はると、ほしいっ」
「ッ……帰ったらいっぱいあげるから……ほら、指動かして。陽汰のえっちなところもっと見せて」
きゅんきゅんと疼くお腹の奥の欲求を満たすように陽汰は前立腺をぐりゅっと強く押し上げた。
パチパチッと白い閃光が目の前に瞬き、甲高い喘ぎ声が零れ落ちる。気づけば閉じていたはずの脚は片膝を立てた状態になり、物足りなさを埋めるように片手で乳首を引っ張っていた。
晴斗のスマホ画面に映し出された陽汰の痴態に晴斗の息も上がっており、それは陽汰の耳にもはっきりと届いた。
「はるとっ、んぁっ、またっ、あぁっ、くるっ」
「うんっ、はっ、ぁっ、俺も、イきそっ」
画面を見るとそこには余裕のなくなった表情の晴斗が映し出されている。彼の射精直前の表情をこんな風に見るのは初めてだった。挿入されているときはいつもいっぱいいっぱいだったから。
幼馴染の射精前の顔がこんなに色っぽいなんて。いつもこんな顔をして陽汰を抱いていたんだ。それを自覚した瞬間、ここにいないのに晴斗に抱かれているような気分になり、絶頂の波が一気に押し寄せてきた。
「あ、あぁぁっ!」
「陽汰ッ」
びくびくっと身体が跳ね、頭の中が真っ白になる。二度の射精で精液はすでに枯れてしまっており、陽汰の陰茎からは何も出ていなかった。
はくはくと唇を動かしながら晴斗の服に顔を押し付け、彼の匂いを必死に吸い込もうとする。そうすることで少しでも安心感が得られるような気がしたから。
陽汰の本能的な行動は間違っておらず、胸いっぱいに吸い込んだ晴斗の香りは発情期に苛まれた身体を癒し、ゆっくりと夢の世界へと誘っていく。
「陽汰」
「ん……」
電話越しの晴斗の声。それが現実なのか夢の中なのか、陽汰にはもう判断がつかなかった。ただその優しい声は陽汰のことを温かく包み込んでくれる。
「明日、帰るからね」
◆
カーテンの隙間から差し込む朝日が顔に当たり、陽汰は眉間に皺を寄せながら重い瞼を開けた。
ここは、晴斗の部屋。ベッドの上には晴斗の服が積み重なり、陽汰はその真ん中で服も着ずに眠っていた。
昨日打った抑制剤はなぜか中途半端な効果しか出ていないようで、発情期の熱は残ったままだ。
そういえば、晴斗の受験に影響が出ないようにと以前強い抑制剤を使った時、数ヶ月は通常の抑制剤の効果が落ちるかもしれないと医師に言われていた。今回は周期もおかしかったし、その影響を受けているのかもしれない。
ベッドの上で呆然と座っていると部屋の扉がガチャッと音を立てた。
「はると……?」
「ただいま。昨日帰って来れなくてごめん……これ、陽汰が作った?」
晴斗が言っているのは陽汰の周りに積み重なった服、オメガの巣のことだ。
陽汰はまだ頭がぼんやりとしていたが、その服たちを見て小さくこくりと頷く。だが、その表情は眉尻を下げ、今にも泣きだしそうだ。
「うまく、できなかった……」
「ううん、そんなことないよ。すごく上手」
彼に褒められたことに少しだけ気持ちが上がるが、それでもやはりこの巣は未完成としか思えなかった。
何が完成なのかはわからない。だけど、上手くない。
俯いて一番近くにあった物をきゅっと掴む。これは確か、二人が恋人になった日、海に着いた時に晴斗が陽汰に貸してくれたマフラーだ。
ここに積み重なった服や小物には全てに思い出が詰まってる。だけど、なんで上手くできないんだろう。
小さく震える陽汰の手の上に晴斗の温かく大きな手が重なった。すぐ近くで感じる彼の熱と香り。そして彼の優しく響く声。
「ねぇ、俺もここに入れてくれる?」
その言葉に陽汰はハッと顔を上げて晴斗の瞳を見つめた。
この巣に足りなかったもの。
それはどんなに彼の匂いがついているものを持ってきても埋めることができなかった。
一番近くて、ずっと一緒にいて、大切な存在。
「うん。晴斗……きて」
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