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小話① 初夜【蓮×柚希】
大学の合格発表があった翌日の土曜日。
暖かな日差しが部屋を明るく照らす中、柚希と蓮はスマホで料理のレシピを探していた。
「あ、これ良いんじゃない?チキンのトマト煮込み!」
「おっ、美味そう。赤がお祝いっぽいし、それにサラダとスープ付けて、バターライスとか合いそうだな」
「いいね!それにしよ!」
決めていたのは大学の合格祝いメニュー。最初は外食という案も出たが、それよりもお互いがお互いの料理を食べたいという話になり、結果として柚希の家で一緒に作ろうということになった。
受験で慌ただしかった日々もようやく終わり、こんな風に二人きりで過ごすのも久しぶりだ。
一緒に買い出しを終わらせ、狭いキッチンに並んで料理をする。いつもは一人きりの空間に蓮がいるのはちょっと照れくさくも、まるで新婚生活を送っているような気分になる。
目の前の料理を作りながらちらっと蓮のほうを見ると柚希の白い頬はほんのりと赤く染まった。
「柚希、今何考えてた?」
「へっ!?な、何も考えてないよ」
「ふーん……ちょっと思ったんだけどさ、こうやって一緒に料理作ってると俺ら新婚さんみたいだな」
ニカッと笑った蓮に、柚希の顔はますます熱くなっていく。きっと見た目も相当赤くなっているに違いない。それを誤魔化すように柚希は小皿にトマト煮込みを少しすくって蓮に差し出した。
「冗談言ってないで!これ、味見してみて」
「冗談じゃなかったんだけどな……お、良い味。完璧だ。さすが俺の嫁さん」
「~~っ、蓮!」
恥ずかしげもなく言ってくる彼の胸を軽くパンチしたが、その手はあっさりと捕まってしまった。それだけでなく、掴まれた腕を引っ張られ、柚希の小柄な身体はすぽんと彼の腕の中に捕らえられてしまう。
「捕まえた」
「もうっ、焦げちゃうから離して」
ぱたぱたと抵抗してみるが体格差も力の差もあるせいで蓮は全く動じず、むしろ抱きしめる力を強めてくる。
こうなったら下から抜け出してみるか、と考えていると彼の低い声が耳元で囁いた。
「柚希」
「ん?」
「今日、泊まっていい?」
ドキッと心臓が大きく飛び跳ねる。
蓮がこの家に来たことは何度もあったが、泊まったことはまだ一度もなかった。
蓮の家が外泊の許可を出さなかったというのもあるが、一番は受験に集中しなければいけなかったから。
受験も終わり、蓮のほうからこう言ってきたということは外泊の許可はすでに取ってあるのだろう。
彼の腕の中で心臓がドキドキと早まっていく。それが蓮にも伝わってしまうのではないかと思っていると、予想外なことに柚希のものではない鼓動が身体に伝わってきた。それは柚希のものと同じようにとても早く、バクバクと力強く脈打っている。
ちらっと見上げると蓮の耳の先が僅かばかり赤くなっているのが見えた。
いつも余裕たっぷりの蓮がこんな姿を見せるなんて。そうなっている理由は他でもない、柚希自身にあるんだ。そう思うだけで顔から火が出そうだった。
「い、いいよ……」
「ありがと。ははっ、ちょっと緊張したわ」
照れくさそうに笑う彼の顔に、思わず見とれてしまう。
本当、どんな顔もカッコいいなぁ……。
そんなことをぼんやり考えていると、コンロの上のぐつぐつという音と、少し焦げ臭い匂いがその思考を遮った。
「わぁっ!本当に焦げちゃう!」
「おっと、悪い悪い」
パッと解放されコンロのほうへと向き直るが、すぐに後ろからぎゅっと抱きしめられた。肩に彼の顎が乗り、耳のすぐ近くで感じる彼の吐息にぴくっと身体が小さく飛び跳ねる。
「れ、蓮も料理の続きしてよ」
「俺のほうは終わったよ」
視線だけを横に向けると確かに蓮が作っていたものは完成しており、あとは盛り付けるだけになっていた。
手持ち無沙汰になったからこうして柚希に抱きついてきているのだろうが、どうにも落ち着かない。
集中、集中、と自分に言い聞かせ、チキンがホロッとするまで煮込んでいく。
最後に味を整えてからコンロの火を消し、蓮に変な悪戯をされなかったことにホッと息をつく。だが、その一瞬を狙ったかのように彼は柚希の薄い耳をかぷっと甘噛みしてきた。
「ひぁっ!」
不意打ちされたことに変な声が上がってしまい、慌てて片手で口を塞ぎ、もう片方の手で噛まれた耳を覆い隠す。
潤みを帯びた瞳で咎めるように蓮を軽く睨みつけるが、悪戯に成功した蓮は殊更楽しそうに笑った。
「悪い」
「それ絶対悪いって思ってないでしょ!笑ってるし!」
「ははっ、柚希があまりにも可愛い反応するからさ」
「はぁ……こんなに顔が良いのに中身は子どもなの?」
「おっ、顔は褒めてくれるんだな。子どもかどうかは……ほら、好きな子にはちょっかいかけたくなるって言うだろ?あれと一緒だよ」
それって子どもじゃん……と心の中でツッコミを入れながら柚希はお返しとでもいうように指先で蓮のおでこを軽く弾いた。
ペチッという音と両目をきゅっと瞑った蓮の表情が少しおかしく、弾いた場所を軽く指先で撫でる。
「ふざけるのはおしまいにして、ご飯にしよう」
「そうだな、もう腹ペコだ」
二人で作った夕飯を食べながら高校であった出来事や、大学では何がしたい等の話をし、楽しい時間はあっという間に過ぎた。そして、今、柚希は一人で風呂に浸かっている。
家主なんだから先に入ってこいという蓮の言葉に甘え、先にお風呂に入ったのだが、柚希の頭の中はあることでいっぱいだった。
もしかして、今日ヤるのかな……?
付き合って半年以上経つが、実は挿入まで至る行為というのはまだ一度もしたことがなかった。
なんなら、付き合う前の発情期で素股をして以来そういった類のことは一切していない。
一番大事なのは受験。これに失敗したら元も子もない。柚希は受験に失敗したら別れてもしょうがないと心の片隅で思っていたくらいだ。だから、無事に全部が終わるまではそういうことはしないようにしようと線引きをしていた。
そして今、無事に合格発表も終わり、二人を縛り付けるものは何もなくなった。
柚希は湯船に顔を半分沈めながらぶくぶくと息を吐き出す。
もし、ヤるってなったら……準備とか、したほうが良いのかな……オメガだからいらない……?けど、発情期じゃないし……。
そんなことを考えながらぼんやりと手を下に降ろしていく。
挿入れるってなったらここに……。
秘所に触れた指をくいっと動かした瞬間、ハッと我に返る。
こんなんじゃまるでヤりたくて仕方ないみたいだ……!
発情期でもないのにこんなことばかり考えてしまうなんて、今までだったら決してありえなかった。自分は性に対して淡白なほうだと思っていたのに。
ふるふると首を振り、思考を切り替えるようにパンパンと軽く頬を叩く。蓮にこんなこと考えていたなんてバレないようにしないと、と気合いを入れてから柚希は風呂から上がった。
◆
「蓮、お待たせ。お風呂先にありがとね」
「あぁ、しっかり温まったか……ってお前のパジャマ随分可愛いな」
「あー……そう、かな?」
可愛い、と言われれば確かにそうかもしれない。柚希が今着ているのは女の子が好みそうなデザインのもこもことしたパステルカラーのパジャマだ。しかし柚希がこれを買った理由は決して可愛かったから、なんて理由ではない。
安売りされていたことと、これなら暖房をつけなくても温かく、電気代節約になるだろうという全く可愛げのない理由だ。
こんな貧乏臭いこと恥ずかしくて言えるわけもなく、何か上手い言い訳がないかと考えていると蓮がパジャマについているフードを頭にかぶせてきた。
「これかぶって湯冷めしないように温かくしてろよ。俺も風呂借りるな」
「ん、いってらっしゃい」
風呂場に向かう蓮を見送り、柚希は自室のベッドの上へと座り込んだ。
さっきの蓮の様子は、柚希がこのパジャマを買った理由を話しにくいことに気付いていたかもしれない。柚希のちょっとした反応を見逃さない彼ならそれも不思議じゃないだろう。
本当、蓮は優しいな。
彼にかぶせてもらったフードの端をきゅっと掴み、小さく笑みを浮かべる。
その時、遠くのほうから微かにシャワーの音が聞こえ始めた。それはなんてことない水音。だが、その音は蓮がシャワーを浴びている証拠だ。
引き締まった彼の身体がシャワーを浴びている。その身体はもしかしたらこのあと柚希のことを……。
「あぁぁ…何考えてるんだろ…!」
本当に今日の自分はどうにかしているのかもしれない。
こんなことばかり考えてしまうなんて。
頭をふるふると横に振り、気持ちを落ち着かせるようにスマホを取り出す。開いたのはいつも見ている料理のレシピサイトだ。
こうして別のことをしていれば意識を逸らせるはず。そう思って気になる料理のレシピをタップしていくが、やはりどうしても集中できない。内容が全然頭に入ってこず、何度も同じ場所を読み返してしまう。
そうしているうちに浴室のほうからガラッと扉が開く音が聞こえてきた。
「……!」
ドキドキと鼓動が早まり、スマホを握りしめる手の力が自然と強まっていく。
どうしてこんなに緊張しているのか自分でもわからなかったが、部屋の扉が開かれる音が耳に入るとロボットのようにぎこちなく扉の方を見てしまった。
まだ少し湿り気の残る髪をタオルで拭きながら現れた蓮は、厚着の柚希とは対照的に白い半袖Tシャツに黒い長ズボンを履いている。
スマホ片手に固まっている柚希を見て彼は軽く笑い、柚希の横へと腰を下ろした。
「風呂ありがとな。何見てたんだ?」
「これ、今度作ってみようかなって」
正直、あまり詳しくは見ていなかったが、開いていたのはお花見特集のページだった。時期的にもちょうど良く、変なページを開いてなかったことにほっと胸を撫で下ろす。
「おっ、いいな。今度弁当作って花見するか。これとか美味そう」
蓮の身体が更に近づき、彼の熱がパジャマ越しにじんわりと伝わってくる。それに加え、いつも柚希が使っているボディーソープの香りと一緒に蓮の誘うような香りが鼻腔をくすぐった。
その混ざり合う匂いは反則だ。スズランとムスクが混ざり合ったような香りは思考を奪い、欲望を引き出してくる。
喉がカラカラに渇き、無意識にこくっと唾を飲み込んだ。
蓮のことが見たい。今すごく、彼のことを見つめたい。
ここで彼のことを見たら、きっと止められなくなる。そう、わかっていながらも柚希は抑えきれずに蓮のほうへと視線を向けた。
「……ッ!」
お互いの熱い視線が絡み合う。
柚希だけではなく、蓮も柚希のことを見つめていた。
蓮の瞳には人を惹き付けてやまない魅力が詰まっている。だけど、それだけじゃない。まるで、獣のような、捕らえた獲物は決して逃さないという熱い炎も宿っていた。
その炎を宿した瞳に見つめられ、一瞬、呼吸すらも奪われたかのような感覚を抱く。自分の心臓の音と、スマホを握る手にじわっと浮かび上がる汗が妙に鮮明に感じられた。
「柚希」
少し掠れ気味の彼の声。柚希のことを渇望するその声に身体の奥がずくっと疼き、薄い喉仏が上下する。
柚希の薄く開いた唇の隙間からは熱い吐息がこぼれ落ち、瞳は潤みを帯びた。
「……れ、ん……」
「……柚希、今日、お前のことを抱きたい……いい?」
大きな瞳が僅かに揺れ、唇が小さく震える。何か言おうと口を開くが、それは音にならず、恥ずかしげに視線を落としたあと柚希はこくりと首を縦に動かした。
その瞬間、柚希の赤くなった頬は蓮の手に包み込まれ、逃げる間もなく唇が彼の唇によって塞がれた。
握りしめていたスマホがカシャンッと床に落ち、唇の隙間から彼の熱い舌が入り込んで口内の舌を絡めとっていく。
こんなにも貪るように激しい口付けは初めてだった。
呼吸すらも奪われ、息苦しさの中で必死に彼に応えようとする。
「ふっ…ぁっ……はっ、ぁ……んっ!」
柔らかな耳の骨を指先で揉まれ、ひくんっと身体が跳ね上がる。
ただ耳を触られているだけなのに全身にぞくぞくとした快感が広がり、柚希は助けを求めるように蓮のTシャツをきゅっと掴んだ。しかし、彼は快感から柚希を救ってくれるわけもなく、大きな手で柚希の両耳を塞いできた。
周りの音がぼやけ、代わりに口内で絡み合う水音や吐息が大きく鳴り響く。
「ゃ、あっ…れ、んっ…それ、みみ、ゃあっ…」
口付けの合間に訴えかけると蓮はフッと笑みを零し、柚希の望み通りに手を離してくれた。だが、彼は意地の悪いことにかぶっていたフードを外し、今度は耳を舐めてきた。
「ひっ、ぁっ!や、やぁっ、だめ、だめっ、れん、あっ、んッ……!」
ちゅっ、ぢゅぅっ、と淫猥な音が耳元で鳴り、彼の舌が柚希の敏感になった耳を舐めていく。逃れようと思ってもベッドに押し倒されてしまい、逃れる術を奪われてしまった。
「柚希、耳、好き?」
「や、ぁっ、そこで、しゃべっちゃっ、だめっ」
彼の低い声と吐息が濡れた耳にかかり、ぎゅっと身を縮こませる。眉尻を下げ、濡れた瞳で蓮を見つめると、蓮はクスッと笑みを零した。
「可愛い」
「ばか……蓮のいじわる……」
「柚希が可愛すぎたから。許してくれ」
もう少しむくれていようかとも思ったが、ちゅっちゅっと唇にキスをされ、その可愛らしい謝罪につい笑ってしまった。
唇を開くと彼の舌が口内に入り、柚希の舌をツンツンとつついた。それに応えるように柚希からも舌を伸ばし、彼のものとゆっくりと絡め合っていく。
「んっ…は、ぁ…っ…!」
口付けを交わしているとジジッ…とパジャマのファスナーが下ろされる音が聞こえ、僅かに緊張が走る。
すでに身体はお風呂から上がったときよりも熱くなり、パジャマの下はしっとりと汗をかいていた。
「柚希、いつもこの厚いやつの下に何も着てないの?」
「……着…てる」
「え?」
「いっ……いつもは、Tシャツ、着てる……今日は……だって、蓮が泊まるって言ったから……」
言っているうちに恥ずかしさが増していき、柚希はふいっと顔を背けた。
これじゃあまるでヤることを期待してたみたいだ。いや、間違ってはいないかもしれないけど、少しあからさますぎたかもしれない……。
左右に開いた服を再び合わせるようにきゅっと裾を掴もうとしたが、それよりも早く蓮が柚希のことを力強く抱きしめた。
「柚希、やっぱお前は最高だ」
「……引いてない?」
「なんで引くんだよ?こんなに欲してるのは俺だけなんじゃないかって不安だったんだぞ。柚希もそういうこと考えてくれてたんだって、こんなに嬉しいことないだろ」
「お、大袈裟だよ……けど、その……僕も蓮のこと……欲しいって、思ってるよ」
柚希は両手で蓮の頬を包み込んだ。少し躊躇いながらも自分の気持ちを示すように口付けをし、舌先でちろっと薄い唇を舐める。すると間髪入れずにその舌を軽く噛まれ、彼の口内へと導かれてしまった。
きゅうっと舌を引っ張られると苦しいながらも快感も得てしまい、身体がぴくっと小さく跳ねる。
口付けだけで蕩けそうになっていると彼の指が柚希の白い肌を滑り、薄く色付く部分に触れた。薄紅色の突起を二本の指でくりゅっと揉まれ、甘い痺れがじわじわと広がっていく。
「んっ……ぁっ……れ、ん……」
強弱をつけて乳首を弄られ、薄紅色だった場所はすぐに赤みを帯びた。ツンッと立ったその場所は蓮に触られると硬さを増し、つられるように下半身の疼きもひどくなっていく。
無意識のうちに腰が動き、下着の中で窮屈そうに勃ち上がり始めたものを蓮の身体に押し当てていた。しかし、その不器用な動きでは決定的な刺激は得られず、もどかしさだけが募っていく。
もっと、欲しい。もっと強い刺激が……。
潤んだ瞳で蓮のことを見ると、彼の瞳が僅かに弧を描いた。そして、胸に触れていた手が熱い身体をなぞり、下へと降りていく。
触れたのは、柚希の熱く硬くなった場所。「あ、ぁっ…!」
ズボンの上からその形をなぞられ、微弱な刺激に腰が引けてしまいそうになる。だが、彼の手が逃がしてくれるはずもなかった。
先程よりも擦る力が強まり、柚希は足の指でシーツをきゅうっと掴んだ。
「柚希、いい?」
蓮の指がズボンの縁にかかる。返答を待っている間も少しずつそれは下げられていき、黒いボクサーパンツの布地が少しだけ見えた。
「柚希」
「……っ、ん」
この時点ですでにキャパオーバーになりそうだった。なんとか声を絞り出して頷くと更にズボンが下げられていく。
お臍、お腹のライン、鼠径部のくぼみ、それは見慣れている自分の身体。しかし、今それを露わにしているのは蓮なんだ。
「……ッ!」
変に意識してしまった瞬間、柚希はパッと腕を顔の前で交差させ、その顔を覆い隠した。
腕の下では信じられないくらいに顔が熱くなってしまっている。
「柚希?」
「うー……恥ずかしいから……このまま続けて……」
「ははっ、わかった」
ズボンを脱がすと中に履いていた黒のボクサーパンツにはすでにぐっしょりと染みができていた。
蓮がそれを少しの間見ていると柚希は両膝を擦り合わせたが、やはり目を開けようとはしない。
少し意地悪く下着の上から指先で陰茎をなぞると柚希はビクンッと身体を跳ねさせ、交差させた手をぎゅっと握った。
「やっ、ぁっ……れんっ、いじわる、やだっ」
「悪い、つい、可愛くてな」
一体何が可愛かったんだ、と言いたくなったが、柚希の言葉は蓮が下着をずらしたことで止められてしまった。
蓮の目の前にぐしょぐしょに濡れた秘部が晒されていく。オメガの可愛らしい淡い色の陰茎は興奮を表すように先端が赤く充血し、液体を垂れ流している。
その光景は身体の奥底からアルファの欲望を湧き上がらせ、理性を焼き切るには十分すぎるものだ。
ごくっと唾を飲み込み、襲いかかりたくなる欲を必死に抑えつけ、Tシャツを脱ぎ捨てながら蓮は柚希に声をかけた。
「……柚希、顔見せて」
「うっ……」
柚希は腕を顔の前で交差させたまま気まずげに手をぐーぱーぐーぱーとさせた。
下も脱がされたのだからいつまでもこうしているわけにはいかないというのはわかっている。だが、まだ心の準備ができておらず、なかなか手を下ろすことができない。
「柚希、大丈夫だよ」
躊躇していると蓮の手がくしゃっと柚希の髪を撫でた。いつもやってくれる彼のその癖がこの場での緊張感を解してくれるようで、意を決してこくっと小さく頷く。
「ぅ、ん……っ!?」
羞恥心を堪えて腕を下ろしたのだが、視界に映った光景にひくっと固まってしまう。
そこにあったのは、筋肉が綺麗についた上半身。
同じ高校生の上半身裸なんて水泳の授業で見たことがある。だけど、蓮のその身体は同級生のものとは全く違う魅力があるように見えた。
そして、その腹筋の少し下。明らかに張り上がった部分。まだズボンに隠されているが、その状態でも大きいということが十分にわかる。
そんなに大きいもの、本当に入るんだろうか。
内心びくびくしていると蓮が僅かに眉尻を下げた。
「……後ろからにするか?」
「え……?」
「いや、そのほうが良いかなって」
「……ううん、このままで……大丈夫」
怖がることなんてない。自分にも同じものが付いてるじゃないか。少し大きさが違うだけだ。
心の中で自分に言い聞かせていると柚希の表情を確認しながら蓮の手が彼自身のズボンにかかった。
ゆっくりと下ろされていくその場所から彼のモノが姿を現す。
「っ……!」
違う。柚希のものとあまりにも違いすぎる。
大きさも形も、アルファとオメガでこんなにも違うなんて。
初めて彼のモノに触れた時は発情期だったせいもあって当時のことはあまり覚えていない。それに後ろからだったし挿入まではしていなかった。しかし、今、素面の状態でこれを受け入れることを想像した途端、指先から全ての熱が奪われていくような感覚に襲われてしまう。
怖い、無理、できない。
その感情は瞳にじわりと熱いものを浮かばせ、柚希はバッと両手で顔を覆い隠した。
「柚希?」
「平気っ、平気だよっ……」
手で抑えられた声はくぐもっていたが、明らかに涙が混じった声だ。
柚希本人は必死に抑えようとしているが、白く細い身体は小さくカタカタと震えている。
「……」
「いいからっ、ヤって」
急かすことで恐怖を押し殺そうとしているのが誰の目から見ても明らかだ。
そんな彼のことを蓮はぎゅっと抱きしめてベッドへと寝転がり、腕枕をするような体勢になる。
「お前な、無理してるのバレバレ。顔見せてみな」
「……うぅっ…」
「ほら、泣いてる。怖かった?」
視線を少し泳がせたあと柚希は申し訳なさそうにこくりと頷いた。その長い睫毛についた透明な雫は電球の明かりによって輝き、目尻はほんのりと赤く染まっている。
「無理してヤるもんじゃないし、ゆっくり慣れていこう」
「…けど……蓮、キツくない…?」
「そりゃキツくないって言ったら嘘になるけど、お前に無理させるほうが嫌だからさ。あとでどうにかするよ」
落ち着けるように蓮は柚希の背中を優しくぽんぽんと叩いた。お互いの心音がわかるくらい近くにいるが、蓮は柚希を怖がらせないために下半身は触れ合わないようにしている。
彼の気遣いに申し訳ない気持ちが湧き上がり、それがまた涙として浮かんできてしまう。目尻に雫が溜まり、羽織ったままだったパジャマで拭おうとすると、それよりも早く蓮の唇がその涙に触れた。
「大丈夫だよ、柚希。怖くない、怖くない」
「……ぷっ……それ、子どもあやしてるみたい」
「おっ、笑った。柚希にはこれが効くんだな」
とん、とん、と一定のリズムで背中を優しく叩かれ、徐々に落ち着きを取り戻していく。それと同時にやっぱりこのまま終わってはいけないという気持ちが強くなる。
蓮はゆっくり慣れていけば良いと言ってくれたが、せっかくの初めての夜を失敗で終わらせてしまうなんて……。けど、また蓮のあれを見たら怖くて泣いてしまうかもしれない。
どうしようかと考えを巡らせていると、柚希はハッと一つの策を思いついた。
「蓮、あのさ……」
「ん?」
「見えなければ…平気、かも……」
「何?目隠しでもする?」
「ちがっ…!電気消せば良いってこと!」
まさかそんな目隠しなんてハードプレイじみたことと勘違いされるなんて。
慌てて否定すると蓮はクスッと笑って柚希の柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でた。
「なるほどな。じゃあ、それ試してみるか。無理そうだったら無理ってすぐ言えよ」
「う、うんっ」
「電気消してくるから、俺が戻ってくるまで目瞑っとけ」
言われた通りに瞼をきゅっと閉じると蓮がフッと笑う気配と額に軽くキスされるのを感じた。
すぐ傍にあった温もりが離れていき、真っ暗になった視界の中で微かな音だけが聞こえてくる。
ピリッと何かが破れるような音、カチッというスイッチの音、そして蓮の温もりが再び柚希の元に戻ってくる気配。
ゆっくり瞼を開けると辺りは暗くなり、僅かに開いたカーテンの隙間から月明かりが差し込んでいた。
「お待たせ。ゴムもしてきたよ」
「ッ…い、言わなくていいから…!」
さっきの音で何となく察しはしていたが、はっきり言われると羞恥で顔を覆い隠したくなってしまう。しかし、今は部屋の暗さが柚希の恥ずかしい気持ちごとその赤くなった頬を隠してくれた。
月の白い光が二人の顔に少しだけかかる。静かな吐息と壁にかけられた時計の秒針の音が繰り返される中、蓮の手が柚希の頬に触れた。慈しむように頬を撫でていく指先は柚希のことを決して傷つけまいとしているかのようだ。
柚希は顔を傾けてその指先に軽くキスをし、彼のほうへ視線を向けた。
「蓮……触って…」
「あぁ……優しくする」
二人はどちらともなく唇を重ね合わせ、熱く柔らかな舌を絡め合った。
ちゅっ、くちゅっという唾液の絡む音と少しずつ荒くなっていく二人の吐息。口付けをしながら蓮の指が柚希の慎ましく閉じている蕾に軽く触れた。
むに、むに、と指先で揉まれ、最初は少し擽ったさを感じた。次第に指の動きは大きくなっていき、二本の指で蕾を左右に広げられると隙間からはとろっとした液体が零れ落ちてくる。液体を纏った指はその滑りを借り、つぷっ…と秘所へ入り込んだ。
「ん、っ…!」
「痛かったか?」
「う、ううんっ、へいき…変な感じ、しただけ……」
溢れ出る愛液のおかげもあって痛みは今のところなかった。ふぅーっと息を吐き出し、大丈夫であることを伝えるようにこくっと一つ頷く。
「ん、それなら良かった。指、増やすぞ」
「んっ…」
指がもう一本増やされ、圧迫感はあったが耐えられないほどではなかった。しかし、中を擦られても違和感ばかりで気持ち良さというのは全く感じられない。
発情期じゃないとやっぱ気持ちよくなれないのかな……?
それとも僕がなんかおかしい……?
頭の片隅でそんなことを考えていると、蓮の指先がある一点をトンッと軽く叩いた。
「ひ、ぁっ!?」
びくんっと身体が跳ね、電気を流されたかのような快感が走り抜ける。明らかに他の部分を押された時とは違う。腰も頭も痺れるような、真っ白になってしまうような感覚。
自分でも何が起こったのかわからずに薄暗闇の中で蓮のほうを見ると、彼が微かに笑みを浮かべたような気がした。
「ここ、柚希の気持ちいいとこ?」
「な、なに……?気持ちいいとこって……?」
「前立腺。これはオメガだけじゃなくて男ならみんなあるやつ。それで、気持ちいいところって言われてる。前の発情期の時も触ったけど、あの時のことはお前、覚えてないもんな?」
部位の名前を言われれば確かに保健体育の教科書でその名称を見たことがある気もする。だけど、それが気持ちいい場所だなんていうのは柚希の知識にはなかった。
そして蓮に言われた通り、発情期のときにここを触られたことは記憶から抜け落ちてしまっている。
不安気に瞳を揺らしていると蓮の指が再び同じ場所をぐりっと押し上げた。
「あ、ゃあっ!だ、だめっ、そこっ、あっ、へんっ」
背中が弓なりに反り、蓮の指をきゅうきゅうと締め付ける。ダメだと言っても蓮は止めてくれず、それどころか柚希の唇を自らの唇で塞いできた。
呼吸も上手くできないまま弱い場所をぐりぐりと押し上げられ、苦しさと快感の波で生理的な涙がぼろっと零れ落ちる。
「ふ、っ、ぁっ…んっ……ゃ、あっ…れ、んっ、あ、ぁっ…だ、だめっ…」
弱い場所ばかりを責められ、柚希の中からは愛液がとめどなく溢れてくる。蓮が少し指を動かすだけでぐちゅっと淫猥な音が鳴り響き、柔らかな内壁は熱を持って蓮の指を締め付けた。
それだけでなく、触れられていない陰茎からも透明な液体がどくどくと止まらなくなっていた。部屋の暗さによって視界には映らないが、それはもう限界寸前だ。
「柚希」
「んっ…ひ、ぅっ…!」
ちゅぽっと音を鳴らしながら蓮の指が二本まとめて引き抜かれた。指が抜かれたあとの穴はひくひくと収縮し、とろっと溢れだした蜜が双丘の間を伝い落ちていく。
胸を上下させ、呼吸を落ち着かせようとしていると蓮の手が柚希の手首を握った。薄く瞼を開いて動きを追っていくと、それは蓮の肩へと導かれ、熱い体温が手のひらから伝わってくる。
「ここ、持ってて」
「んっ……つめ、きをつける…」
「いいよ、爪立てても。挿入れていい?」
「う、んっ……」
少し緊張感を滲ませた柚希の声に蓮はフッと軽く笑みを零し、唇に触れるだけの口付けを落とした。
濡れた蕾にゴムに覆われた熱い陰茎がぴとりと触れる。張り上がった亀頭が狭い穴をぐぐっと広げ、柚希の全身にじわっと汗が浮かび上がった。
「あっ…っ……ゃ、あぁっ…!」
後孔内は愛液によって十分濡れていたが、やはり指とは太さが全然違うモノに変に力が入ってしまう。
まだ亀頭までしか入っていなかったが、ぎゅうぎゅうときつい締め付けに蓮は一度動きを止めた。
「くっ…柚希、少し力、抜ける?」
「ん、ぁっ……まって、ぁっ……ど、すれば、いいっ……ちから、ぬけなっ……」
力を抜く、なんて普段なら簡単にできることなのに、そのやり方がわからない。
抜こうと思えば思うほどに逆に力が入り、後孔に埋まる蓮の存在をより強く感じてしまう。
やっぱり大きい。
見なければ大丈夫なんて言ったが、締め付けを強くしたことで感じてしまった彼の大きさに再びじわりと目頭が熱くなっていく。
泣いてるのがバレたらまた蓮を困らせてしまう。
必死に涙を堪えていると蓮の唇が柚希の額に触れた。その少し冷たい唇は目元、鼻先、唇、といろんなところに触れていく。
「柚希、ゆっくり、呼吸して。焦らなくていいから」
優しい声と顔中に落とされていく口付け。それは少し擽ったく、柚希の固まった身体を解していくようだった。
僅かに力が緩んだのを感じ、蓮は少しずつ腰を押し進めた。結合部からぐちゅっと濡れた音が鳴り響き、彼の長大な陰茎が柚希の中を埋めつくしていく。
「んっ…ぁ…れ、ん……あぁっ…!」
なんとか一番奥まで達し、最奥をトンッと突かれた瞬間、パチッと目の前で白い光が飛び散った。それは前立腺を押し上げられた時よりも強い快感。そして、それより先にいったらダメだと警鐘が鳴り響く。
「ここ、気持ちいい?」
「だ、だめ…そこ、おかしくなっちゃう……や、ぁっ…!」
再びトンッと突かれ、蓮の腰に回した脚にぎゅっと力が入る。狂おしいほどの快感が身体の奥底から引き出され、突かれる度にとぷとぷと愛液が溢れ出してくる。
優しくトン、トン、とそこを突きながら蓮は柚希の耳元で低い声で囁いた。
「ここはオメガにしかない生殖腔。今日は中にまでは入れないけど、いつか入れさせてほしい」
これ以上奥に……?今そこを少し突かれただけでもこんなに気持ちいいのに……?
それに、もしかして蓮の……全部、入ってない……?
いろんなことの脳内処理が追いつかずにいると蓮が柚希の耳たぶを軽く噛んだ。その唇は首筋を這っていき、ちゅうっと吸い付いて赤い跡を残していく。
「柚希、動くぞ」
「ぅ、あっ…ひぅっ!」
奥深くに埋まっていた彼のモノが引かれていき、張り上がった亀頭が熱い内壁を擦り上げた。
完全に抜けきる前に止まったそれはすぐさま再び奥深くを強く抉ってくる。その動きは徐々に早まり、パンパンッと肌がぶつかる音と結合部から漏れる濡れた音も益々激しくなっていく。
あまりの激しさに肩を掴んでいた手がずるっとベッドに落ちた。すると、その両手に蓮の手のひらが重なり、彼は指を絡めて力強く握りしめた。
「ん、ぁっ…れ、んっ…あ、ぁっ…きも、ちぃっ…れんっ…」
「あぁっ、俺も、気持ちいいっ」
「ひ、ぁっ、おく、ぐりぐり、らめっ…ゃあっ」
生殖腔をぐりっと押し付けられ、足の指先がきゅっと丸まる。その強すぎる快感に二人の間に挟まれた柚希の陰茎はぷるぷると震え、今にも達しそうになっていた。
「れんっ、もっ、だめっ…ぁあっ」
「うんっ、一緒にイこう、柚希」
パンッといっそう強く奥深くを突かれ、彼の先端がぐりゅっと柚希の生殖腔を押し上げた。
その瞬間、柚希の脳内に白い光がチカチカと瞬き、ドクンッと心臓が強く脈打った。
「あっ、ぁああっ!」
「くっ…!」
二人の腰が同時にびくびくっと震え、柚希の放った白濁の精液は二人のお腹の間に飛び散り、蓮の精液はゴムの中へと放たれた。
「は、ぁっ…はぁ…れん……んぅっ……」
荒い呼吸を飲み込むように唇が重ねられ、深く舌を絡め取られる。
柚希の射精はすぐに終わったが、口付けを交わしている間も蓮の射精は続いていた。
ずくんっとお腹が重くなるような感じがあったが、彼の精液はゴムに全て受け止められているはずだ。
どれくらい経ったかわからないが、蓮は射精が終わると柚希の肩口に顔を埋め、汗の浮かぶその場所をぺろりと舐めた。それだけでなくちゅうっと吸い上げたり、軽く噛み付いたりして、彼の行動につい笑ってしまう。
「ふふっ…れん、なにしてるの?」
「んー?マーキング?」
マーキング、というとアルファとオメガの間でいう番契約が浮かんでくるが、蓮の行動はもっと動物的なものに見えた。
これは自分のものだと印を付けているような、そんな感じだ。
「あんま目立つところに付けちゃダメだよ」
「それはどうかな」
悪戯っぽく笑う蓮に、頬を軽く膨らませると彼の唇が柚希の唇にちゅっと触れた。
笑みを浮かべる彼の顔を月明かりが照らし出している。
柚希のことを見つめる優しい瞳。それは今、柚希以外は何も見ていない。柚希だけを見ていてくれる。
ちょっと独占欲が強すぎるかな、と思いながらも今はそれが幸せだった。
「柚希」
「ん?」
「好きだよ」
「……うん、僕も。好きだよ、蓮」
まだこの言葉を言うのは慣れていないけど、こんな暗い中でならいつもよりも素直になれる気がした。
二人は今日何度目かもわからない口付けを交わした。
◆
いつもよりも暖かい布団、身体の上のちょっとした重み。ぼんやりとした意識の中でゆっくりと瞼を開けると最初に目に入ったのは白いTシャツだった。もちろん柚希のものではない。
少し視線を上げれば、そこにあるのは整った顔だ。
……このカッコ良さは朝イチで見るのは刺激が強すぎるかもしれない。
そのかっこいい彼は柚希が起きるよりも先に起きていたようで、柚希が起きたことに気付くとニコッと笑みを浮かべた。
「……いつから見てたの?」
「ん?ちょっと前」
「起こしてくれたら良かったのに」
「いや、気持ちよさそうに寝てたし、可愛い寝顔だなと思って」
「……ばか」
耳が熱くなっていくのを感じ、柚希はくるっと背を向けた。すると、蓮がすかさず後ろから柚希のことを抱きしめてくる。
蓮のこの行動はなんとなく予想できた。だが、予想外のことも同時に起こっていた。
健康な男性の生理現象といえども、こんなはっきりとお尻に当たっていては気になってしまう。
「……当たってる」
「そりゃお前のあんな可愛い顔見てたらなぁ……まぁ、そのうち収まるよ」
蓮は朝から手を出してくる気はないようだ。お尻に当たっていたモノを離し、代わりに柚希の首筋に顔を埋めてくる。しかし、柚希はさっき少し触れただけで昨夜のことを思い出し、あろうことか身体が疼いてきてしまった。
……これじゃあ性を覚えたてのえっちな人間だと思われちゃう!抑えなきゃ……!
心の中でそんな葛藤もしたが、欲望の前では無駄に終わるほか無かった。
どくん、どくん、と脈打つ鼓動を感じながらごくっと唾を飲み込み、身体を僅かに縮こませる。
「……する?」
それは蚊の鳴くような小さな声。だけど、蓮の耳にはしっかりと届いていた。
耳を真っ赤にした柚希は布団の中で膝を擦り合わせ、蓮に背を向けたまま両手をきゅっと握りしめている。
「柚希は、したい?」
耳元で囁かれ、ぴくんっと身体が跳ねる。
蓮の手がパジャマの上からお腹をそっと撫で、それは少しずつ上へと上がっていく。その指先がファスナーを掴み、ジジッと音を鳴らした。
焦らすようにゆっくりと降ろされていく音。パジャマの間から晒されていく素肌。
蓮の唇が耳に触れ、柚希は我慢できずにこくりと頷いた。
「……したい」
「じゃあ、昨日より部屋明るいから布団の中でこっそりしようか」
二人は昼近くまでたっぷりと布団の中で愛し合った。そして、今、風呂場の鏡の前で一人立ち尽くす柚希は自身の姿に呆然としている。
そこに写る自分の身体にはそこかしこに赤いキスマークが残されていたからだ。
身体中の愛された痕跡と掠れた喉、抱かれすぎた後孔にはまだ蓮が入っているような気さえする。
「……」
昨夜、自分の独占欲が強いのかと思ったが、蓮の独占欲も相当強いのかもしれない。
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